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太陽の影 3

「何か落ちたぞ」 「んっ? 」  手紙から滑り落ちたものを拾ってみると、航空券だった。 「二人分の往復の航空券だ。オープンチケットだから、日付はフリーだが」 「親父さん、本気で洋に会いたいのだな。結局あれから五年も会ってないし」 「俺は会わなくていい。こうやって手紙やたまの電話で、ちゃんと親子として必要最低限の交流は取っている。だから、わざわざ顔を見せに行くことはない」 「そうか、そうだな。洋がそう言うのなら」  航空券が入っていたので、流石に破り捨てることは出来ず、無造作にリビングの引き出しにしまい込んだ。  この話はそこで終わったと思っていた。 ****  八月に入った。  ソウルの夏は日本ほどの暑さではないが、夏が苦手な俺は少しバテ気味だった。朝から体が少しだるかったが、丈が心配するから気づかれないように元気に振る舞っていた。 「洋、行ってくるよ」 「んっ……いってらっしゃい」  俺と丈は出かける時、必ずお互いにキスを交わす。軽いキスだが丈の温もりを直接感じら幸せを感じる一瞬だ。少しだけ背伸びして丈の肩に手をやって唇をそっと合わせる。  ちゅっ  軽いリップ音が心地良い。  すると、丈が少し心配そうに俺を見つめてくる。 「どうした? 」 「洋、少し熱があるな」 「えっ今ので分かった? 流石、お医者様だなっ」 「馬鹿、ふざけている場合か。洋は熱を出すと長引くから、微熱のうちにしっかり治せよ」  玄関を出ようとしていた丈が靴を脱いで、また部屋に戻ってくる。 「ほら、パジャマに着替えろ」 「大袈裟だな、そこまで辛くないよ」 「いや駄目だ。洋はすぐに無理するから悪化させるんだ。ほら早く」 「……分かったよ」  俺は言われた通りもう一度パジャマに着替えることにした。 「これでいいかな……主治医殿? 」  くすっと笑って丈を見つめれば、丈も優しく微笑み返してくれる。 「いいだろう、さぁベッドに入れ。それから体温計で熱測って、薬も必要だな」  丈の看護モードにスイッチが入ったらしい。丈は医師だから少しでも具合が悪い人を見かければ放って置けないのだろう。 「うん」  ベッドに潜り込み、熱を測ればやっぱり少し熱が上がってきているようだ。 「37.7度か。微熱にしては高いな。このまま熱が上がるかもしれないな。どれ、喉を見せて」 「……」 「やはり少し赤いな。私はもう仕事に行かないといけない。ここに薬を置いていくが一人で大丈夫か」 「当たり前だろ、俺をいくつだと思ってる? ちょっと夏バテしたんだよ。昨日まで一週間、ホテルで国際会議があって出ずっぱりだったから」 「そうだな。随分頑張っていたな」  そう言いながら額に手を当ててくれるので、俺は目を閉じて暖かい手を受け止める。 「今日からオフだから、少しゆっくりするよ。丈、ちゃんと大人しくしているから会社に行ってくれ。ほら遅刻するぞ」 「何だか心配だな」 「ははっ心配症だな。さっきのキスで風邪がうつったかもよ」 「洋の風邪なら喜んでもらうよ」 「はぁ~冗談が通じない。もう行けよっ」  丈は本当に俺を大事に愛してくれて、たまに恥ずかしくなるほどだ。でもそんな丈が好きだ。 「行ってくるよ」 「うん、行ってらっしゃい」  今度は俺の手の甲に軽いキスを落として、出かけて行った。    丈が言ってから薬を飲んだら急に睡魔に襲われた。副作用かな。すごく眠い……躰が沈みこむように眠りに落ちていく。  すると久しぶりにあの子の夢を見た。  俺の従兄弟の涼。十歳も年下の俺にそっくりな顔の涼。涼の行く末が自分のことのように心配で、たまにどうしているか気になっていた。  夢の中の涼はすっかり大きくなって、もう高校生になったのか……俺の高校時代の顔とそっくりじゃないか。  まるで双子のようだよ。  そんな涼が太陽のような明るい笑みを浮かべて、俺に話かけてくる。 「洋兄さん見て! 僕はこんなに大きくなったよ。だからもう一人で洋兄さんのことを探しに行けるよ。だから待っていて。そこに行ってもいいよね」

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