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花の咲く音 18

「陸、そろそろ起きないと間に合わないよ」 「んーまだ眠い」 「でも遅刻するわけにはいかないだろ」 「空、もう少し寝かせろよ。昨日遅かったんだよ」  日曜日の朝早い時間に、僕は陸のマンションに車でやってきた。ここに来るのは、久しぶりだ。ますます多忙な陸はアメリカから帰国後、すぐにフランスへロケに行ってしまい、ろくに顔を合わせる機会がなかったから……そんな空が帰国後暫くしてから、僕に電話をくれた。  洋くんが付き合っていた彼の戸籍に入籍するという話。そしてその結婚式に一緒に行こうという誘いだった。そんな大事な場所に僕を誘ってくれたことが嬉しくて仕方がなかった。 「でももういい加減にしないと。じゃあカーテン開けるよ」  ベッドサイドの窓のカーテンをさっと一気に開けると、朝陽がキラリと目に刺さった。  あっこんな力強い光は……あの日を思い出す。アメリカで……フェリーでした……あの日のキスを。  (509話 陸と空の鼓動4 回想)  陸と僕は肩を並べ、甲板の最前に立った。前方に広がる白いカモメの飛び交う真っ青な空を見つめていると、やがてマンハッタンの楼閣群が一気に現れてきた。そんな中で、陸が僕にくれた言葉が忘れられない。 「空、俺達さ、付き合おうか」 「陸、これって夢じゃないよな」 「あぁ、一人って寂しいもんだな。でも空がいつも傍にいてくれたから、俺は今までそれに気が付かずに過ごせたんだな。この先ずっと空に今まで通り傍にいて欲しい。それにさ、俺気づいたんだ」 その言葉の後に、太陽の光がぶつかったような熱く衝撃的なキスをされたんだ。  あれは夢じゃないよな。  そっと自分の唇に指をあててみる。  陸の唇が、本当にここに触れたんだ。 「んーー空、眩しいからカーテン閉めろよ」 「駄目だって、ほら起きろよ」  布団を頭まで被ってベッドにしがみつくように眠っている陸の肩を揺らした。 「もうタイムリミットだ、遅刻するだろ、シャワー浴びないと。昨日そんな恰好で寝たの?」  布団をはごうとした僕の手を、突然陸がぐいっと掴んだ。  そのまま反転するようにベッドに引き摺り込まれ、  あっという間に、すっぽりと布団の中に連れ込まれてしまった。 「わっ !陸! なっ何? 」 「眼鏡、取れよ」  陸の手がすっと伸びて来て、僕の眼鏡を外してサイドボードに置いた。 「空、じっとしてろ。少しだけだ」 「りっ陸、ちょっと待って」 「しっ黙れよ」  陸のエキゾチックな男らしい顔がぐいっと至近距離に近づいて来て、僕は反射的に目をぎゅっと瞑ってしまった。  こんなかっこいい顔を間近で見たら……顎を掴まれて、上を向かされたと思ったら、温かいものが唇に触れた。  あのアメリカで触れたのと同じ温かさだ。 「んっ」  角度を変えて何度も何度も落とされるキスの嵐。こんな激しいキスを僕は知らない。 「あっ……うっ…」  息が苦しくて、空気を求めてつい陸を押しやって横を向いてしまった。恥ずかしくて気まずくて、そっと陸を伺うように見ると、陸も妙に照れたような表情だった。 「参ったな」 「えっ何? 」 「いや……あー参った」  陸は俺から離れて、ベッドの上に仰向けになり天を仰いだ。 「陸? ごめん……僕…何かした? 」  不慣れな僕じゃ、陸みたいな人には物足りないんじゃないか。そう思うと居たたまれない思いで、胸が塞がった。 「違うよ。空があんまり可愛いからさ、どこからどう手を出せばいいか分からなくて参ってる」 「え……」  陸が僕の眼鏡を取って、またかけてくれた。 「お前さ、人前で眼鏡外すなよ。その顔、人に見せんな」 「陸……」  そして優しいハグ。  陸……君って人は、本当に魅力的だ。  僕が想像した陸とは全然ちがう表情を次々に見せてくれる。  僕だけに見せてくれる顔があることに気が付いた。  それがすごく嬉しかった。 「さてと起きるか。キスご馳走さま」 「陸は物足りないんじゃないのか。僕なんかじゃ……」  経験豊富な陸に比べて、僕の経験なんて女性相手に数回しかない。ついそんな卑下したことを口走ってしまう自分がいやになる。 「馬鹿。可愛すぎて大事にしたくて、手が出せなくて困ってんのに……余計なこと考えんなよ」 「……陸になら何されてもいい」  言った自分が恥ずかしい。こんなセリフが自分の口から出るなんて。 「はぁ……お前なぁ……あんまり煽るな」  陸はこめかみを押さえながら、盛大な溜息を付いた。

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