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『蜜月旅行 59』もう一つの月
信じられない光景だ。
俺の腕の中に翠がいるなんて……
翠が俺に抱かれるのを待っていてくれるなんて。
やっとだ。
ずっと憧れていた兄さんの躰に触れることを許されたのだ。あまりに長い年月を待ったので、興奮して戸惑って手が震えてしまう。
そっと帯を解いて、上半身を剥いた。
綺麗な形の唇。
この唇が薄く開いて、流と発音する時の動きが好きだ。
いつもそう呼んでもらいたくて仕方がなかった。
そしてほっそりとした首と小さな喉仏。
こんな頼りないのに、翠が読経する声は痺れるほどの美声なんだよな。
そして肩から腕にかけての清楚なラインも好きだ。
滑らかに滑り落ちていく袈裟の袂を、俺はいつも見つめていた。
胸元を開いていく。
この先は……ごくっと喉が鳴る。
翠が恥ずかしそうに身じろぐたびに、俺は一刻も早く奪い取ってしまいたい衝動に駆られる。
今、翠の何もかもを、手中に収めているのは俺だ。
一刻も早く繋がりたいと逸る気持ちを押さえるために、翠の片手を絡めとりシーツに押し付けた。そして空いた方の手で翠の薄い胸に触れてみた。
さっきここに触れた時、翠は寝ていたが、今は俺のことを不安げに見上げている。小さな果実があまりにも美味しそうだったので指で摘まみ上げると、翠は苦痛に顔を歪めた。
しまった。こんな場所を他人に触れられたことなんてないはずだ。痛いと感じるのが普通だ。
「あうっ」
「痛かったか、悪い」
「……」
痛かったようで申し訳ない気持ちになった。
違う、こうじゃない。もっと翠のことを感じさせて、気持ち良くさせて、トロトロに溶かしてやりたいんだ。
「ずっとこうやって触れてみたかった。翠の躰に」
「あ……」
今度は乳輪を舌先で優しく撫でるように触れてみると、気持ち良さそうな声が小さくあがったのでほっとした。さっき寝ている翠にしたことを思い出してしまったようで、指摘され気まずかった。
でも翠は優しく許してくれた。もう何もかも受け入れる覚悟が翠には出来ているようで、俺の方も胸が高鳴るばかりだ。
そしてずっと確認したかったことを、とうとう聞くことが出来た。
「翠、男は俺が初めてか」
「っ……当たり前だよ。なんで、そんなことを」
「嬉しいよ。翠……ありがとう」
翠の答え、泣くほど嬉しかった。
あの日の思い出したくもない過去が蘇る。
あの場所で翠を発見した時の俺の衝撃。
何が起きたのか。何をされたのか。
最後まで翠は、ちゃんと話してくれなかった。
でも翠は無事だったのだ。
『翠のはじめては俺がいつかもらう』
青い時代……確かにそう誓った。
もうこんな歳になってしまったが、ようやく叶う時がきたのだ。翠の胸元には、丈と洋くんから受け継いだばかりの月輪が白く輝いて見えた。
「重なる月」のお陰だ。
俺達がこんなにも重たい一歩を、ようやく踏み出せたのは。
丈が洋くんを連れて月影寺に戻って来た時から、俺と翠の運命も変わってきていたのだ。
それにしても翠の肌は、本当に綺麗だ。月明りに照らされた白い裸体をまじまじと見下ろすと、興奮が更に高まった。
落ち着け、流。
流れに乗りすぎるな。
上手く操れ!
自分自身を操縦しないと翠を傷つけてしまうぞ!
そう必死に自分を諫めるが、それよりも興奮の方が勝ってしまう。
俺は一気に翠の浴衣をはぎ取り、唯一つけていた下着も脱がして一糸纏わぬ姿にさせた。
「んっ」
翠は恥ずかしさが溢れたようで、腕で顔を隠し表情を見えないようにしてしまった。
「翠の顔を見せてくれ」
その手をずらしながら翠の潤んだ目元、頬、唇に口づけをしていく。
「そんなに緊張するな。俺にも移ってしまう」
「だが……こんな姿を見られるのはやはり」
「小さい時から一緒に風呂に入った仲だろう。着替えだっていつも手伝っていたのに、何を恥ずかしがるんだ」
「いや……その……だって」
「ふっ、往生際が悪いな」
「もう流れ始めているんだ……俺達は」
「うん……知っている。でも僕たちはどこへ流れ着くのか分からない。……怖くないのか、流は」
「怖くない。翠と一緒なら怖くない。翠が行く所ならどこまでも付いていくだけだ」
初めて……とうとう触れられた。
俺は翠の屹立を手中に収めた。
幻じゃない、生身の翠の躰の一部。
温かい──
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