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『蜜月旅行 60』もう一つの月

 流の大きな手で、半分勃起した状態になっていた僕のものを優しく握られた。 「流っ……」  直に手の熱を感じ竦み上がる間もなく、そのまますっぽりと手の平で包み込まれると、まるでそこに心臓があるかのようにドクドクと血が巡り出した。  恥ずかしい。  こんな部分を直接触れられるのは居たたまれない。 「流……やっぱり」  身を捩るが、流が覆いかぶさるように僕の上にいるので身じろぎ出来なかった。 「翠、そんなに暴れるな。もう覚悟したはずだ」 「分かっている……分かっているが……でも」 「ふっ翠は怖いんだろ?」 「なっんで……」 「俺は知っているよ。翠が本当は怖がりだってことをさ。一人でいるのも暗闇、雷も本当は全部怖いんだろう」 「はっ……」  一気に脱力した。  その通りだから。  本当はずっと怖かった。  一人きりの暗闇。日が昇らない時間に真っ暗な寺の中を歩くのも、真っ暗の部屋で一人で眠るのも全部苦手だった。夏の夕立ちの雷も恐ろしかった。  だが僕は長男だし、弟の手前そんなことを怖がっている場合じゃなかった。  強がり偽った。  僕のこの性格が、雁字搦めに僕を縛っていたのかもしれない。  でも、すべて流にはお見通しだったのか。いや……流は僕のすべてを見つめていてくれたのだ。ずっと長い間、黙って見守ってくれていたのだ。  やがて流の大きな手が緩やかに動き出した。僕はそのまま優しく追い詰められていく。裏筋などの敏感な部分は、指の腹を使って丁寧に擦られた。 「んっ……あっ」  強すぎる快感が、僕の中心をわなわなと震わせた。  なんだ……これは……  くちゅりと音を立て、先端から蜜が零れた。  こんなの知らない。  結婚生活に離婚という形で終止符を打ってから、一体何年経ったのだろう。  それから僕は元妻以外の女性を抱いていない。妻とは別れてからも、正直何度か肌を合わせてしまった。もともと仕事を選んだ彼女とは、憎み合って別れたわけではなかったので、離婚後も求められれば応じた。  今考えると、なんと優柔不断だったのか。  離婚後は月影寺に戻ったので、若住職としての仕事も多忙になり、再婚の話なども沢山あったのだが全部断ってしまった。両親も僕にもう跡取りとなる息子がいることに安堵したのか、もうあの時のように無理強いはしてこなかったから安堵した。  もう結婚生活は懲り懲りだった。  ここ数年、元妻も仕事が多忙で、遥も成長したのでゆっくり会うことも少なくなり……彼女も殆ど求めてこなかった。その後もちろん定期的に自分で処理はしてきたが、それとは別格の気持ち良さを、今……僕は流からもらっている。  驚き、戸惑い、それを上回る気持ち良さが僕を苛む。こんなに丁寧に熱心に、そこを弄られるなんて思いもしなかった。 「翠、余計なこと考えるな。昔のことは忘れろ。俺のことだけを見ていろ」 「流……」  そうだ。もう思い出すのはやめよう。  今は僕を抱く流のことだけを考えたい。  ふぅっと短い息を吐き、流が与えてくれる快楽の流れに身を任せる覚悟をつけた。  流が僕を追い詰める手の動きが増してくる。ちゅぷっという卑猥な音が静かな客室に聴こえていた。  音に煽られ、手に煽られ、どんどん僕は昇りつめてしまう。  熱い……熱いよ。  欲しい……もっと触れて欲しい。  流がこんな風に熱く僕を求めてくれるなんて信じられないほど嬉しい。 「翠、気持ちいいか」 「……すごく……いいよ」 「あぁ良かった」  心配そうに僕の前髪を掻き上げながら流が覗き込んでくる。その目には、何故かきらりと光るものが浮かんでいた。涙なのか…… 「馬鹿。なんで流が泣く? 」 「はっそれは翠が俺の愛撫に応えてくれるなんて、夢みたいだからだ」 「夢じゃない。僕……感じているんだ。流が触れたところが確実に気持ち良くなって……」

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