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引き継ぐということ 32

R18 「翠……」  小さく呼ばれ、はっとする。  気が付くと流が小瓶から潤滑剤を指先に掬い取り、僕と流が繋がる場所へたっぷりと塗ってくれていた。  ドロリとした感触を体の奥に感じ、期待と不安が交差する。  いよいよだ。  宮崎で流に抱かれた記憶が舞い戻って来た。  僕の躰は流を覚えていて自然に躰が求め出す。 「いいか」  この後に及んで変なことを聞くと、朦朧とした意識の中で思ってしまった。  口元が少し綻んでしまったのか、すかさず流に問いただされた。 「余裕だな、翠」  指先をぐっと一気に押し進められ「あうっ」と喉を反らせば、長くて節のある指先の刺激に、どんどん熱が高まっていくのを感じた。  この指先で生み出されるものを知っている。  陶芸の茶碗は緩やかなカーブを、繊細な七宝焼きは深い色合いを、流がよく翠の色だというお抹茶の味わいも……僕は全て愛している。  頭の中で流が僕のために作ってくれたものの残像がちらつく中、増やされていく指先の刺激に悶えていた。  こんな風に躰に相手を受け入れる側になるのは、男としての矜持があるから戸惑いもある。だが、こんなにも嬉しいことだなんて、僕は知らなかった。  今の僕は、流の愛を己の躰で受け止めることに喜びを感じ始めている。 「あっ……んっ……」  ここは月影寺。  禁忌な行為を興じる場所ではないと理解していても、愛する人を求める気持ちはとめられない。  せめて声だけは堪えたいと思うが、長く持ちそうもない。  唇を塞ぐ手は流によって剥がされ、茶室の畳へと縫い留められてしまう。  少しの不安から自然とずり上がっていく腰も抱きかかえられ、漏れてしまう声は時折、流が唇で直に塞いでくれる。 「そろそろいいか」  僕の汗ばんだ背中に流が触れながら、耳元で話しかけて来る。  散々指先だけで焦らされ、その言葉を待ち望んでいたような気がして羞恥に震える。 「翠……どうだ」  もう一度促されれば……言わざるを得えない。  飾らない言葉を。 「もう充分だ。早く……」 「言ってくれよ。その先を」 「……」 「ほらっ」  流の指先で唇を撫でられ、堪らなくなった。  僕は……もう駄目だ。本当に淫らになってしまった。  この口で強請るようなことを……言うのか。 「ほ……し………」  欲しい、そう言うつもりだった。  その瞬間、僕の言葉を流が吸い取ってしまった。  何故? 「いいんだ、翠はそんな言葉を言わなくて、ごめん。意地悪したよな。こんな風に躰を開いてくれるだけで信じられない奇跡なのに、俺は欲張りだ」  後悔したような表情に心打たれる。  艶めいた流の表情に期待が高まってしまう。 「流……僕だって流が欲しい」 今度は、はっきりそう告げることが出来た。

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