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夜の帳 7
R18
顔を洗い歯磨きを済ませ、もろもろの準備を済ました。それからゆっくりと丈の待つベッドに近寄ると、丈が待ちかねたように俺の腕を掴んでベッドへ引きずり込む。
「わっ!強引だな」
「……遅い」
「ごめん」
「洋……今日は寒かった」
どこか拗ねた物言いが、胸に響く。
今までの丈と、どこか違うと思った。
この家で暮らすようになって丈は変わった。そして俺も変わった。
それは悪い方ではなく良い方向へと変わったのだ。お互いに素直な気持ちを沢山吐き出せるようになっていた。
俺達だけの俺達のための家を手に入れたせいなのかもしれない。
この家はいい。
俺たちをそんな気持ちへと導いてくれる。
「そうだね。急に冷え込んだよな。夕方からは北風が頬を突き刺すようだったね。俺も庭掃除をしていて震えあがったよ」
「私も病院から一歩出たら、木枯らしが舞っていて酷く冷えたようだ。なぁ……温めてくれないか」
珍しい……丈からの甘えた誘い。
どうやら今日は俺を性急に抱くというよりも、温もりを分かち合いながらゆっくり抱きたいようだ。
「いいよ。俺の温もりを丈に分けてあげるよ」
「脱いで」
丈の指が俺のパジャマのボタンを指さしてくる。
「うん?」
さっき着たばかりなのに、また自分で脱ぐなんてな。でも丈は俺がこうやって自らの手ではだけていくのを見るのが好きなようだ。ほろ酔い気分の俺は、丈のしたいがままにさせていく。
「こう?」
ボタンふたつ外して問うと、丈は首を横に振る。
「全部だ」
「ふっ、それなら……丈も脱いで」
「洋がやってくれ」
「まったく手がかかるな。今日の丈は」
成程……どこまでも今日は俺に甘えるつもりのようだ。
俺は丈の躰を跨ぐように膝立ちになり、自分のパジャマの前ボタンをすべて外し、それから丈のパジャマのボタンも外してやった。
そして露わになった精悍な上半身に、俺の躰をぴたりと重ねた。
温かい。
これが人肌というものだ。
どんなものにも代えられない。この温もりの深さ。
丈としか感じられないものだ。
お互いの皮膚と皮膚が重なったところから、体温が沁み込んでくるよう。重なった心臓の鼓動が時を刻むように一定のリズムで聴こえて来る。
しばらくの間無言で抱き合った後、丈が枕元のスイッチで部屋の電気を落とした。
闇が静かに降りて来る。
淡い枕元の灯りのみで、辺りは真っ暗だ。
でもそれは今まで俺が恐れていた夜の闇ではない。
安らぎの時を運んでくれるものだった。
俺と丈を優しく包み込んでくれる夜がまたやってきた。
「洋も躰が冷えているな」
「うん、でも先に丈を温めるよ」
今世界には俺たちしかいない。
まるで静かな離れの家自体が大きな※帳のようだ。
何故だか今宵は……俺の方が積極的だ。
丈の肩に手をついて唇を重ね、それから丈の下半身に触れて行く。右手で丈の兆しを帯びたものを擦りながら、舌先で丈の逞しい胸とその小さな粒も舐めた。
「んっ」
珍しく短い言葉が丈からあがる。
そして左手で丈の上半身の筋肉を辿るように触れて行く。同じ男なのに格段に体格のよい丈。
触れる肌は弾力があって心地良い。
何より素肌が触れあっていく感覚が心地よく温かい。
さらに躰を下へとずらした。
丈が俺の腰を掴んで動きを止めようとするが、俺はそのまま丈のものを迷わず口に含んだ。手と口を使って愛撫してみる。
「洋……よせ」
「なんで? いつも俺にしていることだよ」
「だが……」
いつも丈は俺の全身を丹念に愛撫するのが好きで、俺にはあまりさせてくれない。だが今日は……無性に俺の方がそれを丈にしてあげたくなっていた。
今日は寒かったと呟く丈の躰を、俺の手と舌で十分に温かくしてやりたいと思った。
深く静かな気持ちで溢れていた。
※帳(とばり)
部屋や寝所を仕切るために垂れ下げた布。カーテンのようなもの。
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