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解けていく 16

 胸先を弄る流の手の動きが、一段と妖しくなってくる。  僕は漏れそうなる声を必死に噛み殺しながら、高められていく躰の熱に悶えていた。 「うっ……はっ」  白い蒸気に包まれながら、はしたない声をあげてしまうことが無性に恥ずかしく、思わず俯いてしまう。 「翠、顔を見せろ」 「……」 「なぜ顔を隠す?」 「……だってここは明るすぎる。それに借り物の風呂だから早く上がらないと、道昭が怪しむだろう」 「ふっ……長い理由だな。しょうがない。続きはあがってからにしよう。俺のは、もうこんなだけどな」  そう言いながら、流が僕の手を股間へと導くので、びくっと肩を震わせてしまった。 「あっ……流のこんなに? これじゃ辛いだろう……すまない」 「あーこんなのもう慣れてるさ。いつも翠のことを見てはこんなになっていたからな」 「ばっ馬鹿っ!」 「なぁ翠……春には新しい家が出来る。楽しみだな」  流の手が、すっと僕から離れた。  トーンダウンさせようとしているのだ。  出さないで大丈夫なのだろうかと案じたが、流なりに処置は心得ているようで、必死に話を切り替えて、高まりを静めようとしているのが分かり、不憫に思った。 「流の工房……楽しみだな」 「俺のことはどうでもいいんだ。あれは翠のための家だ」 「そうか……着工は来年になってからだよね。もうかなり具体的になってきているのか。お前はいつもひとりで打ち合わせしてしまうから、僕はいまだに詳細が分からないよ。そろそろ図面だけでも見せて欲しいな」 「楽しみにしていろ。どこにいても翠を見ることが出来る家さ」 「……それって僕がどこにいても、流のことを見られる家ってことだな。ずっと見つめていられるのか」  流の言葉を言い直してやると、流の顔は珍しく真っ赤になった。 「どうした?」  流は明らかに照れていた。  弟の流の……こんな顔は久しぶりに見る。 「流……?」  そっと汗と蒸気で湿った黒髪をなでてやると、はにかんだ笑顔を浮かべた。 「……嘘みたいだ。翠からそんな言葉を聞けるなんて」 ****  今日の学会も無事に終わった。  当初、高瀬くんと丈の三人で飲む予定だったが、昼食を共にしたメンバーも合流しての大きな飲み会になってしまった。  創作の焼き鳥やさんはカウンター席のみで入りきれないので、居酒屋に行くことになってしまったのもがっかりだが、もっと気がかりなことがある。  高瀬君のさっきの言葉を反芻していた。  今、高瀬くんは他のメンバーに囲まれ楽しそうに歩いている。  俺はその背中を見つめながら、眉をひそめてしまった。  そんな訳で歩調が遅れがちな俺に、丈がさり気なく合わせてくれた。 「どうした? 洋は浮かない顔だな」 「……大丈夫だ」 「大丈夫じゃないな? 何か心配ごとがあるようだ」 「……」  まったく丈って奴は、いつだって鋭い。 「飲み会では……丈の隣に座れるかな」  なんと伝えていいのか分からなかったが、子供みたいに丈の傍にいたいと願ってしまった。そんな俺の様子を丈はじっと見つめ、やがて柔らかく微笑んで肩をぽんっと叩いてくれた。 「あぁ隣に座ろう」  触れてもらった部分が温かいと思った。  いつだって俺の不安を察して拭ってくれるのは、丈だった。  いつの時代も、いつも傍に。

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