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解けていく 17

「さてと……席、どうします?」  高瀬くんが繁華街の居酒屋に着くなり、皆に一斉に声を掛けた。 「もちろん高瀬くんの隣がいいなぁ」 「あー私も!」  そんな声が女性からも男性からも次々に上がる。可愛くて明るい高瀬くんは話上手で、皆に人気だ。  それに比べ、俺は正直この中で知っているのは丈と高瀬くんだけだから、見ず知らずの人が両隣だったりしたら困る。 「そうだなぁ~あっ浅岡さんの隣に座りたい人誰かいます?」 「……」  高瀬くんがそんなことを言い出したので驚いた。  一体何を……?  皆一斉に俺の方を見たので、居たたまれない。視線が痛く……たじろいでしまった。  でもすぐに丈が…… 「私が座ろう。新しいメディカルライターさんとゆっくり話したいしな」  そう言って俺の背中を押して促してくれた。 「ふぅん、じゃあ張矢先生の左隣は僕ってことで、あとは自由にどうぞ」 「なんだよーそれ! 張矢先生ばかりモテておかしいだろう。可愛い高瀬くんと美人の浅岡くんに囲まれて狡いぞ。それに張矢先生は既婚者だぞ」 「いいんですよ。既婚者だなんて関係ない」 「おお! 高瀬くんついに強気発言!!応援するぞ!」  この人たちは同性愛に偏見がないのか、それともふざけているだけなのか。    判断がつかない。  ブーイングが飛ぶ中、変な席順になってしまった。  丈の右隣には座れたのはいいが、これではあまり意味がない。  俺は本当に気さくに人に話しかけることも、話しかけられても気の利いた会話が出来ない。こんな初対面の相手ばかりだと気後れしてしまい、困惑してしまった。  暫くは俺抜きで雑談が続き、やがて各々が好きな酒を飲み出した。  丈はしきりに高瀬くんに話しかけられているので、俺は黙々と苦いビールを飲み続けた。  すると俺の右隣の男性に話しかけられた。彼は確か丈と同じ医局の医師と自己紹介していたよな。 「へぇ……ビール好きなの?」 「いや、苦いですね」 「くく、違うもの頼もうか? えっと、どーも。俺は張矢先輩と同じ医局で働いている陣内っていいます」 「あっはい。メディカルライターの浅岡です。よろしくお願いします……」  緊張のあまり語尾が小さく萎んでしまう。 「へぇ浅岡さんって顔のわりに大人しいんだ。なんか地味なんですね~勿体ない。でも俺、実は一度あなたのこと見かけたことあるんですよ」 「え?」  驚いてしまった。やましいわけではないが、余計なボロが出ないようにしたい。こんな大勢の前で、丈を矢面に立たすわけにはいかないから。 「どっどこで、ですか」 「一度大船の病院に来ていましたよね。診察室前の廊下の椅子に座っていたのを見ましたよ。その美貌でしょ。どこのモデルか俳優がお忍びで診察に?って気になって」  まさかあの貧血で倒れた時、最初に助けてくれた医師じゃ?  思わずじっと目を凝らしてしまった。あの医師と背格好は似ているが、彼ではなかった。 「聞いてる?」 「あっはい」 「で、気になってたんだけど、俺さ休憩時間に入っちゃって、戻って来た時にはもういなかったから」 「そうですか、確かに一度受診したことはあります」  隠す方が怪しいよな。それに嘘ではない。  その後貧血で倒れて、本当に丈に診察してもらったのだから。 「へぇ身体どっか悪いの? 俺が主治医になってあげようか」 「いや大したことはなくて、もう治りましたから」 「あれぇ……つれないな。あっそっか、あのベンチ、張矢先輩の診察室の前だったな。じゃあ主治医は張矢先生ってわけ?」 「……」  病院にあんな風に興奮して、心の思うままに駆けつけたことを少し後悔した。つくづく、どこでどんな風に見られているのか分からないものだと思った。  そんな話をしていると鋭く刺さる視線を感じ、辿っていくと高瀬くんと目があった。 「浅岡さんって、そういうことか」 「え? そういうことって?」 「身体が弱いとか古典的ですね。そうやって気をひこうと。あざといな」  小さな声だったが嫌味っぽく言われ、ぐっと言葉に詰まってしまった。 「おい? 高瀬くん、今の言葉はどういう意味だ?」  会話を聞いていた丈が、むっとした声を出した。 「だって、いい成人男性が張矢先生に近づくために虚弱体質を装って?」  これには俺もむっとしたが、丈の方はもっと怒りをあらわにした。 「洋の貧血は仮病じゃない」 「『よう』って、浅岡さんのことですか」  勢いで俺のことを呼び捨てにした丈のことを、高瀬くんが不審そうに見上げた。  まずいな、この展開。

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