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13章 始動 1

おはようございます。今日も最初にご挨拶です。私の創作はこんな感じで、まえがきやあとがきが入ることも多いです。お気をつけくださいね。 さて、こらもそろそろ通常モードに戻ります。クリスマスから新年の特別編で13章への布石を打ったので、このまま時間軸をつなげていくことにしました。 今度は物語は月影寺を飛び出して、ソウルと東京、NY、もちろん月影寺の流・翠の話も交えてワールドワイドな感じになっていきそうな予感です。 そして突然ですが今日から13章に突入です!副題は『始動』です。 どうぞよろしくお願いします。少し不穏な始まりですが、物語を丁寧に追っていきます。 では本文です。 **** 『始動』  涼に名残惜しそうに見送られ、俺は久しぶりに実家に顔を出すことにした。元旦だけは挨拶に帰ってくるようにと、何度も母親から連絡があったので無視出来なかった。  ありふれた住宅街、一軒家へ続く道を歩きながら思い出すのは、学ラン姿の洋と肩を並べて歩いた日々。ここに住んで一番嬉しかったのは、洋の家と近所で幼馴染になれたことかな。  涼とも一度一緒に訪れたことがあって、あの時は楽しかった。洋と涼と銭湯に行き、我が家で川の字で眠った。今日も本当なら涼を連れてきてやりたがったが……それは一筋縄ではいかないことだった。  母親は洋の結婚式に来たくらいだから、そういう方面に多少の理解があるとしても、父親はお堅い真面目な人で、「洋くんが男性と暮らしているなんて、お父さんには死んでも言えない」と母が嘆くほど、異端なものには理解がない人だ。  俺の家はおまけに本家って奴で、正月になると五月蠅い親戚が一同に集まるんので、そんな場所に簡単に涼を連れて行けない。  まして涼はモデルで、最近ではドラマにも出たりと芸能活動も活発になってきて、ちょっとした有名人だから、本当に慎重に隠し通さなくてはいけない存在だ。  だから、たまに洋のことが羨ましくなる。あの寺の中で洋は皆に認められ歓迎され愛されている。同じ顔をした涼にだって、同じようにしてやりたい。でもそれはそんな簡単なことではない。それを痛感している日々だ。  それでも俺は涼と一緒にいたいし、涼もそれを望んでくれる。  洋……あいつは本当に苦労しての今だから、簡単にうらやましいなんて言えないが、やっぱり羨ましいよ。あー俺って、意地が悪いよな。情けない自分が嫌になるよ。 「安志、やっと帰って来たわね。この子はもうっ」  家に帰るなり母親の小言が始まった。 「またお正月から洋くんのところに入り浸っているの?」 「え……まぁ……そうだけど」 「もうっ! 洋くんには洋くんの生活があるのよ。お邪魔でしょう」 「……」 「ねぇ、もうほどほどにしなさいよ。あなたももう今年は29歳になるんだから、そろそろ結婚とかも……前向きに考えて頂戴。早くお嫁さんを迎えてお正月やお盆の手伝いして欲しいわ」 「何だか意外だな。母さんからそんな言葉を聞くなんて」 「安志……あのね、いい機会だから言っておくけど、洋くんは洋くん、あなたはあなたよ。私は洋君の選んだ道をもちろん応援はしているけれども……あなたには、やっぱり母親として……普通の結婚をして普通にお父さんになって欲しいのよ。孫も見たいしね」  母さん……珍しく機嫌悪い?  多分親戚が集まっていろいろ言われたんだろうなと察することが出来た。あぁ……ますます面倒だ。  親が健在なのはありがたいのだが、柵ってものをつくづく感じるよ。 「安志、やっと帰ったのか」 「あっはい。父さん、明けましておめでとうございます」 「あぁ、とにかく中へ。皆集まっているぞ」  玄関で母親と話していると、今度は親父の登場だ。ますます形勢が不利になっていく。もう早く切り上げて、涼の待つ月影寺に戻りたい。  自分が不甲斐なさ過ぎて、嫌悪感が募ってしまう。 ****  茶室の手伝いは重労働だった。次々とやってくるお客様にお茶を運んでは、下げての繰り返し。あれこれ質問されたり話しかけられたりもして、パニックになりそうだった。  そして今は月影寺の母屋で、重箱におせち料理をつめている。  涼は茶室の手伝いの後、突然マネージャーが迎えに来て、一旦東京に戻ってしまった。急な新年会に顔を出さないといけなくなったらしい。安志が戻ってきたら、これは……がっかりするだろうな。  あの二人……新年早々すれ違ってしまうのか。少し不安を感じながら、こんなこと考えるなんて縁起悪いと、頭を振って嫌な考えを追い出した。 「さてと、あとは蒲鉾と伊達巻を切って……あ、太くなった……今度は細すぎて立たない……ううっ……」  ふぅ……ただ切るだけだと思ったが、こんなに大変なのか。  俺は器用ではないのは認めるが……本当にいい歳して情けないな。ソウルでは丈に助けてもらい、ここでは二人のお兄さん達も加わり、大事にされているのを痛感した。  俺も今年はもっと役に立てる人間になりたい。焦りと苛立ちと悲しみとが入り混じって複雑な気持ちになっていると、翠さんがふらりとやってきた。  やはり少し顔色が悪いのが心配だ。今日も具合が悪いのか……翠さんは寝間着代わりの作務衣姿だった。おそらくさっきまで横になっていたのだろう。寝癖のついた髪の毛が、翠さんを更に若く見せていた。 「洋くん、奮闘しているが、大丈夫かい?」 「翠さんこそ起きて大丈夫ですか」 「……うん、丈が持って来てくれた薬のお陰で、熱は下がったようだ」 「でもまだ顔色が……」 「なんだか大変そうだね。手伝ってあげたいのだが……僕も生憎、家事が苦手でね」  翠さんが悪戯気に笑った。  その時、机に置いておいたスマホのバイブがウィーンっと突然鳴り響いた。ガタついた木のテーブルだったせいか、いつもより振動が大きく嫌な音を立ててしまった。 「あっ、すいません」  慌てて手に取ったが、その瞬間、翠さんが口に手を押さえて真っ青な顔をして震えだした。今にも吐きそうだ。どうしたのだろう、急に。 「翠さん? 大丈夫ですか」 「ごめん。ちょっと……」  そのまま、トイレに駆け込んでしまった。  その後ろ姿に不安が募ってしまった。同時にさっき流さんに言われた言葉が過った。  あの茶筅みたいなバイブのことを指して「あれは翠には絶対見せんなよ……」と、言っていた。  まさか、翠さん……?  あの事件で翠さんと薙くんが閉じ込められていたマンションに突撃した時……俺は薙くんの方へ回ったので、翠さんが、どんな状況に陥ってしまっていたのか、詳細を聞いていなかったのを後悔した。

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