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花明かりのように 14
寺の朝は、多忙だ。
山門へ続く長い階段は参詣者が毎日必ず通る場所なので、特に念入りに掃除をする。落ち葉やゴミなどがないように気を遣う。滑って転んだりされたら大変だからな。
中庭も然り。
手を入れ過ぎず、手を抜き過ぎず……その塩梅が大切なのだ。
庭掃除なんて若い者を雇えばいいのにと言われる、俺は、とにかく身体を動かしたいんだ。
どうして、こうも頑丈に生まれてきたのか。
今までの人生で……兄さんの風邪を数回もらった程度で、風邪らしい風邪もひかず、他に怪我や大病もしていない。
それに引き換え……兄さんは風邪もひきやすいし、インフルエンザにも毎年のようにかかる。しかもこじらせて気管支炎にもなりやすいと気の毒な程だ。
更には骨折も二度しているし、火傷の痕だって治りにくく……結局、全部見える傷として残ってしまう。
俺たち……逆に生まれれば良かったのに。
兄さんの細い躰が、それらの痛みを受け止めていくのは、見ていて忍びない。
俺の方はこの歳になっても体力だけでなく、その……精力の方も元気過ぎて……流石にこれを全て翠にぶつけては倒れてしまうだろう。
まぁ……とにかくそういう理由で月影寺の中を一日中、駆け回っているって訳さ。
翠を毎日のように何度も抱くわけにはいかないだろう。
そんな場所もないし翠にはそんな体力もない。それにあまり絶倫だと、翠に嫌われてしまうかもと不安も過るしな。
「さてと汗を流すか」
一汗かいたので、母屋に戻ってシャワーを浴びた。
腰にタオルを巻いて脱衣所でゴシゴシと髪の毛を乾かしていると、脱衣所に置かれた大きな籠に洗濯物が沢山入っているのが目に留まった。
「今のうちに洗濯しておくか」
ガサッとその籠をひっくり返し洗濯槽の中に放り込むと、籐の籠だったので底に洗濯物がひっかかってしまった。そろそろこの籠も取り替え時かと、何気なくその洗濯物を手づかみすると、それは……
「こっ! これって、翠のパンツじゃねーか」
俺は辺りをキョロキョロ見回した! これでは、まるで不審者だ。
翠のパンツを握りしめ、腰にタオル巻いただけの裸体。
薙はとっくに登校したし、丈と洋くんは離れだ。あいつらの洗濯物は、母屋とは別に干している。
ふと、昔……し損ねたことを思い出した。
やっぱりあの時は惜しかったよなーと、変態じみた考えがムラムラと湧いてくる。
そっと、それを嗅いでみたくて、鼻に近づかせてみた。
もう、あの頃のように、俺が何も知らないわけじゃない。
翠の雄の部分……俺はもう直に咥えたこともあるんだぜ、と遠い昔の俺に自慢してやりたいところだ。
あれ……これ、妙に全体が湿ってないか。
それに全然、におわねー!(つまんねー!)
何でだ?
官能的な翠の雄の匂いは、どこに行ったんだよ?
さっぱりした石鹸の匂いがするって、どういうことだ?
期待した分、拍子抜けしちまった。
待てよ、これって、どう考えても、兄さんがこっそり先に洗ったんだよなぁ。どうして今更そんなことを?
あ……待てよ。まさかまさかの……そのまさかなのか。
「夢精しちゃったのか……あの兄さんが」
それなら合点だ。
それにしても、あの澄ました顔で翠がこの歳で夢精したというのは、それだけ俺に飢えてくれたってことだよな。
そう思うと、顔がニヤついて止まらない。
すぐにでも翠の顔が見たくて、新しい作務衣に着替え、本堂にドタバタと向かった。
「兄さんー! どこにいるんだ?」
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