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それぞれの想い 13
「丈……っ」
感極まった洋が、私の胸に飛び込んで来てくれた。
私の白衣に頬を擦りつけ、澄んだ涙をきめ細やかな頬に一筋流した。
男にしては華奢な身体、男にしては美し過ぎる顔、何度生まれ変わっても、洋の外見は大きく変わらなかった。それは、私に見つけてもらうためだったのか。私が見つけやすいようにだったのか……。
その類い希な容姿があらゆる男を魅了してしまい、あの屈辱を呼び寄せる原因になろうとも、洋は洋として生まれ変わってきたのだ。
そんな洋が、ようやく今生で全ての難題を乗り越え、穏やかな永住の地を手に入れた。だからこそ、もう私たちは離れてはならない……片時も。
病院をやめて開業したい。
それは冷静沈着な私らしくない先走りった決断だった。私はまだ由比ヶ浜の洋館すら見ていないのに。だがもうそんな細かいことはどうでもよくなっていた。
これからは、洋と作り上げていけばいいのだ。
足りないものがあれば、洋と二人で補っていこう。
私は私の殻を破る。
「もう一度言う……洋はもう二度と私の傍を離れるな!」
「丈……それって、なんだかプロポーズみたいだ」
「あぁ、そのつもりだ。何度でもするよ。洋、お前を愛してる」
****
その晩、離れの窓辺で育てていた植物に、季節外れの花が咲きそうになっていることに気付いた。
「丈、ちょっと見てくれ」
「どうした?」
「いい香りがすると思ったら……流さんから譲り受けた花が今、まさに咲くところだ」
「え? 開花は7月から11月だと聞いていたのに?」
白い大輪の花、その名は『月下美人』
月下美人は一晩しか咲かず、夜に咲くことから神秘的なイメージを持たれている。花が強い香りを10m以上も放つことでも知られている。
「いい香りだな」
「あぁ、優雅で心地良い香りだな。ジャスミンに似ている?」
花の香りを挟むように……お互いの顔を近づけ、チュッと口づけをした。
「洋の香りと似ているな。花言葉は確か『艶やかな美人』だしな」
「俺は男だよ? だが丈にそう言われるのは好きだ。俺の魅力で丈を独り占めできそうか。なぁ、丈先生」
「ふっ、それは煽っているのか」
甘く丈を誘えば、すぐにベッドに沈められた。
「この花は一晩しか咲かないので儚くもあるが、強くもある」
「儚いのに強いのか」
「月下美人の花は一晩で萎んでしまうが、暫くするとまた次の大輪の花を力強く咲かせてくれるのだ。だから花言葉も『艶やかな美人』や『はかない美』だけでなく『秘めた情熱』『強い意志』を併せ持っているのだ」
いいな。一見儚そうに見える人が、実は芯が強いのはいい。翠さんのように、俺も凜として毅然としていたいと願う。
「丈は、何でも詳しいんだな」
「流兄さんから教えてもらった。その時に……洋のようだと思った」
口づけの合間に、丈が教えてくれる。
「いいね、儚げに見えるのに、秘めたる情熱と強い意志もあるなんて」
「だろう? 私の洋にぴったりだ」
胸元を探られると、腰が震える。
パジャマを開かれ胸の尖りを舐めてもらえば、溜まらない気持ちにいつもなってしまう。
花の香りに酔ったのか。もっと淫らになりたいと思うなんて――
「丈も今、俺と同じ気持ちか」
「あぁ、花の香りにやられたな」
「ふっ……ならば抱き合おう、俺達……命ある限り……一つになっていこう」
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