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それぞれの想い 27

「少し車の窓を開けてもいいか」 「もちろんだ」  舞い込む春風が、優しい想い出を運んでくれる。  ついさっきの出来事だ。 『青年僧侶の会』に行く翠を山門まで見送るために背後を歩いていると、翠が突然道端にしゃがみ込んだ。 「翠、どうした? 具合でも悪いのか」 「違うよ。ほらここにクローバーが群生している」 「へぇ? 竹林だけかと思ったら、ここだけいつの間にか原っぱになっているな」 「ここ、芽生くんの……楽しい遊び場になりそうだね」 「そうだな。確か白詰草って指輪や王冠を作れるんだよな」  俺も翠の横にしゃがんでみた。 「翠に指輪をつくってやるよ」 「え? どうやるんだ。僕が作りたい」 「分かったよ。じゃあ教えてやるよ」  翠が子供のように目を輝かせた。 「こう? このあとは?」 「そうそう、あとはここを丸め茎をまとめれば、指輪の完成だ」 「わ……出来た。僕にも出来た」  不器用な翠にしては素早い飲み込みで、上出来だった。 「なぁ、流……目を閉じて」 「ん?」  ここはプライベート・ガーデンのようなものだ。キスでもくれるのかと期待すると、指に何か通された。 「いいよ。目を開けて」  翠が作ったシロツメクサの指輪が、俺の人差し指に通されていた。 「どう?」 「なんで左手に?」 「何となく……ここが落ち着くなって」 「そうか、いい場所だ」  俺は知っている。人差し指は英語ではIndex finger《インデックスフィンガー》なので、人差し指につける指輪はインデックス・リングと呼ばれている。  人差し指は、物事を指すために使う指なので夢や願望を象徴し、集中力を高め幸運へと導いてくれる意味が強いそうだ。 「あの……ごめん。えっと……薬指にするべきだった?」  翠が照れ臭そうに謝るので、『違う』と首を横に振った。 「ここがいい。ここが俺たちの場所だ」  右手は「現実」左手は「精神」と結び付きがある。だから左手人差し指は、己の気持ちを導く指なのだ。つまりここに指輪をつけると前向きな気持ちになれる!  翠との関係にもっと自信を持ちたい。  翠と歩む人生にいつまでも積極的な気持ちでいたい。  そんな気持ちの後押ししてくれる場所だった。 「翠、ありがとうな。俺に清らかな指輪を贈ってくれて」 「な……そんな……シロツメクサで作った指輪でそんなに喜ばれたら……困るよ」 「だが、最高の贈り物だよ」 「も、もう――そんな顔するな」 「どんな顔だ?」 「カッコイイよ。豪快な流が繊細な白詰草を指につけているのが溜らないんだ」  翠は真っ赤になりながら教えてくれた。 「なんだ? ギャップ萌えかよ?」 「も、もうっ、言わないでくれ」 「ははっ、翠の百面相が見られて嬉しいよ」 「くすっ、そうだね。僕……朝から笑ってばかりだ」 「俺たち……幸せだな」 「あぁ」  今日みたいな一時も、至福の時。  小さな幸せは、確かに俺たちの周りにも転がっている。  見つけられるかどうかは、俺たち次第。  

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