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それぞれの想い 31

 達哉が自然と「父さん」と口に出せば、拓人くんも自然に「お父さん」と言った。  縁あって親子になったこの二人はまだまだぎこちないが、それでも双方に歩み寄ろうと努力をしている。  必ずや……達哉はいい父親に、拓人はいい息子になるだろう。  脳裏に浮かぶ明るい光景に、心が温まる。 「翠、流くん。拓人のこと助けてくれてありがとう」  達哉が潔くガバッと頭を下げる。 「お父さん……」  拓人くんがその様子を照れ臭そうに見守っていた。 「そうだ。翠さん、あの……さっきはすみませんでした。翠さんのこと『お母さん』みたいに甘えてしまって」 「いいんだよ。甘えたくなったら、またいつでも月影寺においで」 「……翠さんは不思議ですね。全てを包み込んでくれるから、肉親みたいに……俺もつい甘えたくなります」  僕がそんな存在になれたのなら良かった。  血が繋がっていなくても大丈夫だ。肝心なのは心が繋がっているかどうかだ。  洋くんから学んだことを、拓人くんにも伝えられたのなら良かった。  達哉と拓人くんが、肩を寄せ合って笑っている。 「拓人、全部出してスッキリしろよ」 「と、父さん、それって……意味深だよ」 「よし、笑ったな。コイツ! これからはちゃんと話せよ。心配したぞ」 「はい……」 「うんと言え」 「う……うん」 「そうだ! そもそも言葉遣いが余所余所しいからだな。なぁ、俺とはもっとフランクにいこう」 「うん!」    先ほどまでの緊迫した世界が一気に緩み出す。   それを間近で見る事が出来て心温まった。  同時に、僕ももっともっと薙との関係を大切にしていこうと胸の中で誓った。 「じゃあ僕達はそろそろ帰るよ」 「翠、悪かったな、今日は」 「とんでもないよ。素敵な贈り物をもらった気分だよ。達哉はもう立派な父親だな。僕も頑張るよ」 「そうか……気付いてやれず、面目なかったが」  ポリポリと決まり悪そうに髪を掻きむしる様子に、その癖……昔から変わっていないないなと目を細めた。 「気付けなかったことを悔やむだけで終わらせず、ここに血相を変えて駆けつけてくれた。心の底から拓人くんを心配していたから出来た行動だね。それが何よりだよ。出来なかったことを悔やんでいるだけでは、何も生まれないし、進まないから」 「ふーむ、翠が言うと深いな。何だか和尚さんの説法を聞いている気分になるよ」 「達哉だって、住職なのに?」 「ははっ、そうだったな」  達哉と笑い合った。  こんな日が、末永く続くといい。 「流、そろそろ戻ろうか、月影寺へ」 「あぁ、兄さん、そうしよう」  そして、それぞれの場所に戻る。      

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