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それぞれの想い 32 

「流、寄ってくれるか」 「もちろんさ!」  建海寺からの帰り道、月下庵茶屋に立ち寄った。  翠は留守番をしてくれている小森、初めての御朱印受付を頑張っている洋、そして久しぶりに月影寺に戻ってきてくれた両親と薙のために、最中を買うつもりだ。おっと丈の分もあるから安心しろよ! 「いらっしゃいませ~、きゃあ~ 翠さまぁ♡」 「こんにちは、いつもの最中をいいかな?」 「畏まりました。あ、流さんもいらっしゃいませ」  相変わらず店の看板娘の黄色い悲鳴を浴びる翠は、もう慣れっこなのか、柔和な営業スマイルを浮かべている。 「あらまぁ~ すいちゃんとりゅうちゃんじゃないか」 「おばあさん!」  出た! 俺らを「ちゃん」づけする、この店のかつての看板娘。 「ねぇねぇ、あの子は、すいちゃんの息子さんかい?」 「えっ?」 「ほら、喫茶の窓際を見てご覧。あの焼きうどんを頬張っている子、中学生の時のすいちゃんにそっくりだよ。懐かしいねぇ」  翠と一緒に奥を覗くと、本当に薙が座っていた。 「おデートかねぇ。可愛いねぇ」  なぬ? デート? 「しっ、流、そっとしておこう」 「アイツ、やるなぁ」 「何だか変な感じがするよ」  どういう経緯か分からないが、薙が女の子と向かいあって座っていた。  女の子は背を向けているので顔は見えないが、長い黒髪が艶やかで可愛らしい感じだった。しかし薙よ、このシチュで焼きうどんはないぞ。  そんな所が……叔父である俺に似たんか!  俺たちは見つからないように、そっと店を出た。  ところが薙がすぐに追いかけて来た。気付いていたのか。 「父さん、流さん!」 「お、お前。デートじゃないのかよ?」 「えっ! そんなんじゃないよ。ノートを写させてもらったらお礼にご馳走してくれって言われてさ、オレも腹が減っていたから寄り道してた。ごめんなさい」 「それはいいけど、ノートって?」 「拓人が昨日から学校を休んでいるから、心配で……でも俺のノートじゃアレだからさ」  拓人くんのためか!  翠と顔を見合わせて口元を綻ばせてしまった。 「父さん、今から拓人の家に届けに行ってもいい?」 「うん、きっと喜ぶよ」 「ん? 何で知って?」 「いいから、ほら行っておいで。気をつけて」 「了解!」 「あ、待って、これ手土産に持って行きなさい」 「和菓子か。サンキュ! 父さん」  ちょうど小分けに包んでもらった最中があったので、翠がもたせてやった。 「お顔はすいちゃんなのに、焼きうどんの豪快な食いっぷりはりゅうちゃんそっくりだったね」 「おばあさん、あの子は息子の薙です。よろしくお願いします」 「あぁ、いいね。次の世代も見られるなんて、長生きしてよかったよ」 「おばあさん、僕は……もっともっと長生きしてもらいたいです」  キラーン! (でた翠のばーさんキラー!) 「あぁぁ……すいちゃんは優しくてきれいで可愛いねぇ♡」  流石年の功、特大♡じゃねーか! 「流? 何を暴れている? さぁ帰るよ」    ****  ひぃー!  この長蛇の列はなんだなんだ?  みんな洋さん目当てなのか。いつの間に、一体……どこからこんなに人がやってきたんかーい! 「はい。次の方、お並び下さい~」 「あ、あの……」 「ん? なんですか」 「あの、オレは君に書いてもらいたいんですが」  ええええ、まさかの僕、指名!!  小森風太をお呼びですか。  相手は同性……男子高校生だけれど、嬉しくて思わず頬をつねってしまった。 「イタタ……初めてのご指名ありがとうございます。えっとぉ、何をサービスしたら」  支離滅裂のセンスの欠片もない会話をすると、彼はニコニコ笑ってくれた。 「じゃあ、彰《あきら》って書いてください」 「へ? へい!」 「くくっ、やっぱり可愛い人ですね」  どうしよう?   僕、明らかに年下男の子の笑顔にドキドキしている。  まさかの、まさかだよぉ~!      

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