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それぞれの想い 34

「しょ、少々お待ちくださいね。あああああ、彰さん!」  た、大変だぁ~!  僕はふらふらと御朱印帳受付に戻った。 「よ、よ、ようさーん!」 「どうしたんですか。小森さん、顔、真っ赤ですよ。外が暑かったですか」 「ちがくて、ご指名をもらっちゃったんです‼」  洋さんは目を丸くしていた。 「ご指名って、大丈夫ですか。何かされたのでは?」 「されました♡」 「えっ‼ 大丈夫ですか、小森さんは可愛いから、心配です」  ひぇぇ~ 今日はなんのラッキーデーなの?  僕って超凡人だと思っていたのに、もしかして可愛いの?  今度は頬をつねってみた。 「イテテ……」 「小森さん、ちゃんと話して下さい。で、誰に何をされたんですか」  美しすぎる洋さんの顔がどアップになり、急に照れ臭くなってしまった。  あ……男が男に恋する気持ちが存在するのって、分かるな。洋さんみたいな絶世の美形を前にしたら、誰でもほわんとトキメイテしまうよな。いやいやそれを言ったら優美でたおやかなご住職さまも然り!この月影寺は顔面偏差値高すぎだー! 「あ、それが僕の署名の御朱印が欲しいと言われただけなんですが、可愛い男子高校生だったので、つい浮き足だってしまいました」(ちょっ! これ、日本語OK?) 「へ?」  洋さんは先ほどまでの心配モードから、少し冷ややかな目になっていた。  そんなぁ~ 待ってくださいよ。 「小森さん、場所、変わりますね。心置きなくその少年に書いてあげてください」 「あ、ありがとう」  僕にとっては、初めてなのだから喜んだっていいよね? 洋さんのいけず~!  よーし、『彰さんへ』って書いちゃうもんね! (『御朱印帳を芸能人へのサイン帳と間違えてはいけません』と、いつも住職がやんわりと女性ファンをたしなめているけど、今日はいないからいいよね) (小森くん、ここはそういう場所ではないよ)  住職の声が聞こえた気がして、慌てて周りを見渡すがいなかった。  空耳、空耳。 「そうだ! ついでに『小森風太より♡』って書いちゃおうかなぁ」  ウキウキ。 「あ、あの出来ました」 「ありがとうございます。小森風太さんと言うんですね」  わ、ついにフルネームで呼ばれてしまったよ~ 「では」  あれれ? もう行ってしまうの? 僕に何か言うことないのー?  と、入れ替わりで住職が戻って来られた。  ぴえん~ この深い悲しみ……慰めてもらいたい! 「じゅうしょく~ ぐすん!」 「小森くん、留守番ありがとう。何か変わったことはなかった?」 「ありましたぁ! この小森のサインが欲しいという青年があそこに!」  あ、あれ? もういない! 「サイン……って? 一体、あ、もしかして」  住職は小首を傾げ、背後に控えていた副住職には、豪快に笑われた。 「やったな! 小森、ついにモテ期到来か、おめでとう!」 「いや、相手は男子高校生ですよ。年下だし、同性だし……でもとっても嬉しかったです」 「……小森くん」  まずい! サインなんて言ってしまったからお目玉を食らう?  ギュッと目を瞑るが、静かなままだ。 「ふぅ、仕方が無いね。目を開けていいよ。ほら最中を買ってきたから、洋くんと休憩をしておいで」 「やったぁ最中ですね! ありがとうございます。住職だ大好きです」 「くすっ、やっぱり小森くんは可愛いねぇ」  住職が目を細めて見つめてくれると、僕には耳と尻尾があるような心地になる。 「わぉーん! 食べてきます!」    **** 「翠は、極端に小森に甘いぞ」 「だね、僕は可愛いものに弱いんだ」 「可愛いねぇ。 あっ、もしかして俺のことも可愛いと思っていないか」  そう聞くと、翠が意外そうな顔をした。 「流は……カッコイイと思う」 「お、おい、いきなり寺の中で告白するなよ。焦る!」 「ごめん、兄としては可愛いと思うこともあるが……やっぱり流はカッコイイよ。僕の憧れだよ」  今日は一体何のご褒美だ?   小森だけでなく、俺まで舞い上がりそうだぜ。  『憧れ』は俺の台詞だぞ、翠……。  ずっと憧れていた翠からもらう言葉は、金平糖より甘かった。  今日一日、翠の背後で副住職として大人しくしていたが、我慢出来なくなりそうだ。 「流、皆がお茶をしている間、二人きりだね」    翠は俺を煽る天才だ!  あぁ、今は真っ昼間で、ここが御朱印受付場だということが恨めしい。 「流、今から……夏休みの旅行が待ち遠しいよ」  翠も同じ気持ちなのが伝わって、それが嬉しかった。 「二人きりで、山奥で寝ても覚めても……」 「りゅ、流……」  未来への約束が出来ることに感謝しよう。  だから……今は、ぐっと我慢だ。 あとがき(不要な方はスルーです) **** ここ数日遊んでしまいましたが、明日からまた物語をぐぐっと進めます。 いよいよ洋たちが白江さんのお屋敷に行きます。 14章も佳境です! また流と翠の話に登場する『夏の旅行』はエッセイ『しあわせやさん』で小話として連載していました。https://estar.jp/novels/25768518 本日30話で完結しましたので、よろしければ♡      

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