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ある晴れた日に 6

「丈、パンと紅茶だけじゃ、栄養が偏ってしまうよ。そうだ確かリンゴが……」 「兄さん、危ないからいいですよ」 「そうだよ、父さんが指でも切ったりしたら、オレと丈さんが、流さんに殺されるよ!」 「ははっ、薙、お前、ずいぶん詳しくなったな」  珍しく丈が柔和な笑みを浮かべ、薙の頭をクシャッと撫でた。  そのことに薙が目を見開いて驚いた。 「丈さん、今日、ヘン!」 「変か」 「あ、その……話しやすいよ」 「おいおい、私はそんな怖かったか」 「え? いや……そういうわけじゃ。そうだ、空気が緩んだ感じ!」  そんなやりとりを聞いていると、僕も嬉しくなった。  丈……雰囲気が昨日までとガラリと変わったのに、自分では気付いていないのか。凍てついた空気が解けて、とても優しくなったよ。 さて、リンゴって、どうやって皮を剥くんだ? 闇雲に半分にぶった切ると、リンゴがまな板の上をゴロゴロと転がって行った。 「わっ! 危ない!」    薙が咄嗟に手を伸ばして、リンゴをキャッチしてくれた。 「ととと、父さん。なんか……見ていられないよ。オレがやるよ」 「え……薙、リンゴを剥けるの?」 「……やったことないけれども、父さんよりはマシな気がする」 「酷いな」  ところが、薙も危なっかしい手つきだ。 「あぁ、もうっ、二人とも見ていられないですよ。薙、私がやるよ」  丈が苦笑しながら果物ナイフを受け取り、見事な手先でリンゴを剥いてくれた。  その様子を薙と、ひたすら感心しながら見つめた。 「丈の手際は素晴らしいね。お前は流に似て、とても器用だね」 「この位、朝飯前ですよ。私をなんだと思って?」  丈がふふんと不敵な笑みを浮かべたので、薙と声を揃えた。 「最高の外科医だ」 「ふっ……|神の手《ゴッドハンド》ですよ」 「うわっ、丈さんって、ナルシスト!」 「ははっ、そうかもしれないな」  丈の指先が更に細かく動き出す。  リンゴの皮に斜めに浅く切り込みを入れ、包丁の先を繊細に動かしていく。 「ほら、薙にはこれだ」 「あっ、ウサギだ!」  うさぎリンゴ……! そんなものまで作れるのか。

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