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身も心も 4

「流、ちょっと来て〜」 「なんだ? また母さんか。翠はここで待ってろ」 「う、うん」  流の手が僕の身体から離れても、僕の心臓はドキドキしっぱなしだった。  高校時代に着ていたジャージを羽織ってみると、当時まだ中学生だった流のことを思い出した。  僕だけを真っ直ぐ見つめて、僕だけを慕ってくれた可愛い弟。  どんなことがあっても守ってやりたいと思う大切な弟だったんだ。  あの頃の僕は、流への愛おしさ溢れる気持ちが、まさか恋心だとは気づけず、兄として守ることで精一杯で、逆に流を追い詰めてしまった。  そんな寂しい気持ちと、懐かしい気持ちに包まれていると、また流がドタバタと戻ってきた。 「全く母さんには、参ったよ」 「どうした?」 「こんな汚いのまで取っておくなんてさ」  流がバサッと床に置いたものを拾い上げると、それは流が高校生の頃、よく着ていた緑色のジャージだった。  あぁ、懐かしいな。  大学生になった僕は、いつもさりげなく流の姿を目で追っていたから、覚えているよ。 「あっ、翠、よせよ、きっと臭いぞ」 「そんなことない、流の匂いだ」  ジャージを抱き締めると、流の匂いに包まれているようだった。  その横で、流が真っ赤になっていた。 「ううう、恥ずかしいぜ」 「どうして?」  答えを予測出来るのに、つい聞いてしまう。 「……翠に抱きしめられているようで」 「ふっ、僕は流に包まれているようだ」  そっと袖を通してみると、悔しいが……袖丈も身幅もぶかぶかだった。でも最高に心地良かった。 「決めたよ」 「何をだよ? あぁもう汚いから早く脱げよ〜」 「嫌だ……これを病院に持っていくよ。大きいからガウンとして、ちょうど良いよ」 「えっ、えぇ?」 「流、これは僕にとってのお宝なんだ」  甘く見つめ返すと、流はますます顔を赤らめた。  豪快でいて、繊細な流の心を、病院に連れて行くよ。    

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