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身も心も 5

「なんだよ、母さん」 「ふふふっ、あなたのもあったわよ、懐かしいわね」 「げっ!」  母が衣装箱をひっくり返して笑っていた。  畳に散乱していたのは、俺が高校時代に使っていたジャージで、裾や袖先が擦り切れて年季が入っていた。  体育で使ったものだが、俺の扱いが雑だったのと成長が著しかったので、何度か買い替えてもらったんだよな。だから家での部屋着にもしていたんだ。懐かしいな。  当然パジャマ代わりにもしていたので、ジャージの下にはやましい思い出もある。  はぁぁ〜 とっくに捨てたと思っていたのに、こんなのまで取っていたのかよ! 「これ、どうする?」 「俺がもらう!」  それをまさか翠が羽織ってくれるなんて。  当時このジャージを着ていたのは俺で、このジャージを着ながら何度も何度も翠を恋しがっていたので、気まずいぞ。  翠はそんなこと知る由もないから、ぎゅっと抱きしめて、匂いまで嗅いでいる。  ううう、これはかなり恥ずかしい!    過去の秘めたる思いを暴露しているような心地で、落ち着かない。 「流、これをガウンがわりに持っていくよ」  明らかに大きいジャージだぞ?   だが翠の華奢な体が、俺のジャージの中で泳いでるのもいいし、細い指先だけ出ている袖もヤバい、萌える!  どうして俺の翠は、こんなに可愛らしいのか。これは堪らない。  照れ臭いのと嬉しいので、俺の頬は、今、朱に染まっているだろう。 「流、僕にいろんな表情を見せてくれるようになったね」  翠がそんな俺を見上げて甘く微笑む。  俺は納戸の引き戸を閉めて、翠を抱きしめた。 「翠、このジャージを本当に持って行ってくれるのか」 「うん、流が近くにいるみたいで心地よいよ」 「嬉しいことばかり言うんだな」 「本心からそうしたいと」 「ならば翠のジャージを俺にくれよ」  翠は腕の中でコクンと頷いてくれた。 「うん、離れている間、これを僕だと思って」 「翠……」  過去のお宝すらも、もう一方的に募る思い出ではない。  これからは、苦く辛い過去も、こんな風に二人で昇華していく。  翠は俺を求めることを隠さなくなった。  それが嬉しくて、想いの丈を込めて、熱く甘い口づけで包み込んでやった。 「翠、応援している」 「……怖い、怖いが、変わりたいから挑むよ、流、待っていてくれ」

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