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身も心も 7

「翠、まだ起きていたのか」 「溜まっていた仕事を片付けようと思って」 「そんなのやっておくから、こっちに来い」  入院前夜、自室で檀家さんからの手紙に目を通していると、流が呼びに来た。  どこへ連れて行かれるのかと思ったら、薙の部屋の方向だったので、廊下の途中で立ち止まった。 「流、ちょっと待って」 「あいつは言葉や顔には出さないが……父親のことを密かに心配しているんだよ。だから今日は傍にいてやれ」 「流……」  恥ずかしい。僕は自分のことばかり考えて、息子の気持ちを思い遣れなかった。 「おい、そんな顔すんな。翠はいい父親だ。大丈夫だ」 「流は……それでいいのか」 「昨日まで翠を夜な夜な独占してしまった。俺も薙の気持ちを蔑ろにしてしまったんだ。だから同罪だ」 「そんな……それは僕も同じだ」 「さぁ行ってこい」  トンっと背中を押されて、僕は父親の顔になった。    トントン―― 「誰?」 「薙、入ってもいい?」 「父さん?」  薙はもうパジャマ姿で、机に向かっていた。  顔だけこちらを見つめ、少し怪訝な表情になった。 「どうしたんだよ? 明日から入院なのに、早く寝なくていいのか」 「少し薙の顔を見たくなってね。あ……宿題をやっていたの?」 「そうだ、ちょうどよかった。ここ、教えて欲しいんだ」 「古文か、いいよ」 「やった!」  久しぶりに薙の隣に座った。  机に向かう薙の頭を見つめ、ふと幼い頃を思いだした。  頭の形……変わっていないな。  赤ん坊の頃、僕が抱っこすると泣き止んで、すやすやと眠ってくれたね。  抱き方は流仕込みだったから、気持ち良かったのかな?  そんな薙が三歳の頃、一緒にお風呂に入ったら、僕の胸の傷痕を見て泣いたんだ。 『パパぁ……どった? いたい?」 『ごめんね。もう……大丈夫だよ。もうとっくに治っているんだ』 『でもぉ……まだ、いたそうだよ。そうだ……いたいのいたいの、とんでけー』  そう言って、おそるおそる傷痕に触れてくれたのが、嬉しかったよ。  あの時、しみじみと僕の血を受け継いだ優しい息子がいることに、感謝した。  だから離婚で離れ離れになるのは、辛かった。  そんな薙が……今は僕のすぐ横にいる。  こんなに嬉しいことはないよ。  そっと手を伸ばし、頭を撫でてやった。 「びっくりした! 父さん……何?」 「いや、暫く入院するから……息子に触れたくなったんだ」  正直に話すと、薙は気の抜けたような顔になった。 「薙、父さんの入院中、いい子にしているんだよ」 「父さん! オレ、もう15歳!」 「年なんて関係ないよ。いくつになっても……薙は僕の大切な息子だよ」 「もうっ父さん……なぁ……ちゃんとここに戻って来てくれよ。何かあったら許さないからな!」 「あぁ、ここの傷痕を消して、前に進みたくなったんだ」  傷つけられた理由は話していなが、薙も察しているのか……悔しそうな顔で、いきなり僕に抱きついてきたので驚いた。 「父さん、応援している……だから頑張って!」 「ん……ありがとう」  息子からのエールが嬉しくて、心の温度がじわりと上昇した。 「あのさ……今日だけ……父さんの部屋で寝たいんだけど」 「あぁ、そうしよう」  

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