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身も心も 8

 父さんが手術のため入院すると聞かされたのは、1ヶ月前だった。  最初は重大な病気になったのかと心配したが、流さんが丁寧に皮膚の治療のためだと教えてくれたので、安堵した。  父さんの胸元に酷い火傷痕があるのは、ずっと前から、幼い頃から知っていた。  一緒に風呂に入っていた時に見つけて、かなり驚いたからな。  綺麗で優しい父さんの身体を侵食するようにはびこる火傷痕……幼子心に憎くて、なんとかしてやりたかった。  だが幼いオレに出来たのは『いたいのいたいのとんでいけ』と……子供だましのまじないだけだった。  でも……父さんはその度に本当に嬉しそうに、オレを抱きしめてくれた。  だからお風呂に一緒に入る度に、おまじないをかけてあげた。  あの頃はなんの躊躇いも無く父さんに抱っこされ、父さんに触れられた。  そんな父さんがオレを置いて去って行った時は、恨んだよ。  だからここに来ても最初は許せなくて反抗ばかりして、沢山……父さんを傷つけてごめん。  あれ? なんだか……無性に父さんに触れたくなってきた。オレ……もう15歳なのにこんなの変だろ? 「父さん……もう寝たかな? ちゃんと眠れたかな」  耐えきれずに口に出した瞬間、父さんが扉をノックしたので驚いた。    素直に甘えられない俺は、古典の勉強を教えてもらうことを口実に、父さんを部屋に留めた。  こんな近くに座ってもらうの、久しぶりだな。なんだよ、オレ、幼い子供みたいに胸をときめかせているのか。  すると父さんがオレを懐かしい瞳で包み、頭を撫でてくれた。  父さんは感情を隠さなくなった。 「びっくりした! 父さん……何?」 「いや、暫く入院するから……息子に触れたくなったんだ」  オレに触れたくなった?  その言葉が嬉しくて温かく……脳内をリフレインした。  父さんが歩み寄ってくれている。ならば……オレも近づこう。 「父さん、応援している……だから頑張って!」 「ん……ありがとう」  ちゃんと言えた! もう一つ強請っても? 今日ならいいよな?   「あのさ……今日だけ……父さんの部屋で寝たいんだけど」   **** 「父さん……手を繋がないか」 「薙……ありがとう」  和室に横並びに敷いた布団で、薙と手を繋いだ。  心細い夜に……大切な温もりに触れられてもらえ、涙が出そうだ。  口数の少ない薙だが、心根の優しい子なのだ。  幼い頃は本当に仲良し親子で、風呂はいつも僕と入り、僕の布団によく潜り込んできたんだよ。覚えているかい?  そんなことを考えながら薙を見つめると、また目が合った。今日は何度も交差するね。 「と、父さん……あのさ……手術……怖いか」 「……正直に言うと……怖いよ。僕はね、痛みに弱い人間なんだよ」 「父さんは弱くなんてない。誰だって痛いのは嫌いだ」 「そうだね、僕は手術したことないから怖いのかも。術後、暫くは痛みが続くと丈から説明は受けているが」  もういい歳の大人が情けない。子供の前でこんな泣き言を言うなんて。  そろそろ自制しないと……  深呼吸して気を引き締めた。 「さぁもう寝なさい」 「父さん!」 「どうした?」 「あのさ……そっちに行ってもいい」  いつもポーカーフェイスな薙が、今は真っ赤になって恥ずかしそうに俯いていた。 「おいで、一緒に眠ろう」 「きょ、今日だけだぞ。父さんが寂しそうだから」 「分かっているよ。全部父さんのせいだ」 「父さん!」  温もりがまた近くなる。 「いたいの……いたいのとんでいけ……」  薙がそっぽを向きながら、呪文を唱えてくれた。  だから、僕は頑張れる――  ****  明け方、翠の部屋を覗いて、泣けた。  翠と翠の息子が寄り添って眠っている。  親子という大切な絆を、翠は結び直したのだ。  

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