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身も心も 9
目が覚めたら、父さんとの距離が近くて驚いた。
「おはよう、薙」
「ん……おはよ」
照れ臭くて俯いてしまったが、すぐに布団から出ることはしなかった。
こんな機会は、またとないから。
「薙がいてくれたから、暖かかったよ。ありがとう」
「そ、そう?」
「改めて……大きくなったね、でもやっぱり僕の息子、薙のまんまだ」
父さんが愛おしそうに、僕の頭をまた撫でてくれた。
両親が離婚してから、オレは人に甘えることを徐々にやめた。
孤独は当たり前。
寂しいのは弱音。
怖いのは脆弱な心のせいだ。
そんな風に考えて、肩肘張って生きてきた。だから久しぶりに触れてもらう肉親からの温もりが心地良かった。
こんな優しい、素直な朝があってもいいよな。
「父さん、人ってさ……案外寂しい生き物なんだな」
「そうだね。でも、それが人間だよ」
寂しさや怖さ。
それを認めると肩の荷が下りたように、ぐっと楽になった。
父さんに素直に甘えられるようになっていた。
****
「じゃあ、母さん、行ってきます」
「翠、もう行くの? ひとりで大丈夫?」
「はい、流に送ってもらいますので」
「あぁそうよね。流がいるものね。応援しているわ」
「ありがとうございます。父さん、母さん、留守中よろしくお願いします。薙をどうかよろしくお願いします」
手術範囲は左胸下。執拗に広範囲につけられた根性焼きの痕を切除し、太股内側の皮膚を移植して目立たなくする。移植範囲が広く深いのと心臓近くなので全身麻酔で行われ、また治療上安静が必要なので、抜糸までの間、1週間程度入院することになった。
「こちらは何も心配することないわ。手術は流に立ち会ってもらうわね」
「はい、ありがとうございます」
「翠、頑張ってね」
母が僕を抱きしめて、あの呪文を唱えてくれた。
「……すーい、痛いの痛いの飛んでいけ……翠は……我慢強い子だけれども、我慢し過ぎないで」
「はい。お母さん、ありがとうございます」
いくつになっても、母にとって僕は息子なんだ。
愛されている、それは人を強くする。
治療な面……つまり身体は丈に任せて、精神的な面……つまり心は流に付き添ってもらおう。
身も心も弟たちに委ねて預けて、僕は手術に臨む。
前回検査入院した時とは雲泥の差の緊張感だ。それでも前に進もうと思えるのは、見たい未来があるから。
流と生きていくこの世界は、希望に溢れている。
流と山門に向かって歩き出すと、洋くんが駆け寄ってきた。
「翠さん! もう行かれるんですか」
「洋くん、行ってくるよ。そうだ、昨日、丈は大丈夫だった? 身内の手術はプレッシャーだろうに」
「……あ、あの……丈は俺が暖めてあげたので、絶好調のはずです。安心して任せてください」
「ふっ」
「あの?」
洋くんは無意識らしく、僕と流の微笑みの意図を理解出来ないようだった。
「洋くんは強くなったね。安心して丈を任せられるよ」
「そ、そうでしょうか」
おぞましい暗黒の世界に突き落とされた経験がある洋くん。
君は孤独も恐怖も全部受け入れて、成長している。
だから僕も追随するよ。
過去受け入れて、今を受け入れて……そして生きていく。
そして目に見える過去を消してくる!
あとがき(不要な方は飛ばして下さい)
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いよいよ翠、入院ですね。
この物語はフィクションです。皮膚移植による傷跡治療方法は多少調べましたが、リアルなものではありません。どうかご理解の上、読み進めていただけますように……よろしくお願いいたします。
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