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身も心も 15

 その日は丈のジャージを着たまま、母屋で夕食をご馳走になった。  流さんが作ってくれた三色丼を食べていると、塾帰りの薙くんがドタバタと入ってきた。 「あれ? 洋さんがジャージなんて珍しいな。なんで?」 「えっ、ゴホッ」 「洋、大丈夫か。水を飲め」 「あ……ありがとう」  まさか丈のジャージを彼シャツのように着させられているとは言えず、むせてしまった。 「? でも、かっこいいな。黒いジャージなんて今時珍しいし」 「そ、そうかな」  それでも褒められれば悪い気はしない。 「それどこで買ったの? 俺の部屋着にしたいな~ 俺に貸してくれない?」 「え?」  そう来る? 「それはダメよ!」 「ダメだろ」 「……ダメだ」  わ! お母さんと流さんと丈の声が揃った。 「えー! みんなして否定? 何だよー」 「よし、では……薙には私が新しいのを買ってやろう」 「え? いいの」 「もうすぐ誕生日だろ?」 「うん! やった! 実はさ、MIKEのジャージで欲しいのがあるんだ」 「なるほど、いいぞ」  あっ、丈がまた笑った。    最近は優しく温かく笑うんだな。  丈が家族の中で笑っている。  それがこんなにも嬉しいことだなんて。  ****  その晩、風呂上がりの洋にジャージを羽織らせた。  明らかにダブダブなのが、愛おしくて溜まらない。  さっきから高校時代の寂しい思い出が、どんどん霞んで見えなくなっていた。 「洋……どんな気分だ?」 「うーん、俺の知らない丈に包まれているみたいかな」 「そんなことない。私は私だ」  すると洋が艶やかに微笑み、クンクンとジャージの匂いを嗅いだ。  その仕草に……まるで私の身体を探られているようでドキッとした。 「本当だ! 丈の匂いが染み付いているよ」 「ふっ……そんなことするんだな。洋も……」 「意外だった? 俺って案外子供っぽいのかもよ」 「いいんじゃないか。もっと変わっていいぞ。どんな洋でも私の洋だから」 「ん……じゃあ、今度は俺のジャージも探してくる」 「……」  丈が複雑な顔をする。 「どうした?」 「いや……どこのカップルも同じようなことをしているんだなと」 「もしかして、このジャージ交換って、流さんと翠さんがやっていたのか」  ビンゴって顔をしているな。 「まあな。入院中の翠兄さんが流兄さんの着古したジャージを着て、嬉しそうにしていたよ」 「いいね。翠さん……大丈夫かな。心細いだろうね」 「ジャージがついているから」 「俺も丈が遅い時とか夜勤の時……これを抱きしめていそうだ」 「寂しいのか」 「まあね……寂しいよ」 「素直で可愛いな。なぁ……洋……もう一度魔法をかけてくれないか」  丈が右手を俺に差し出したので、俺は手の甲に恭しくキスをしてあげた。 「大丈夫……丈の手は……」 「言ってくれ」 「ゴッドハンドだろ?」 「ふっ、そうだ」 ****  翌朝、洋に見送られ玄関に立った。  姿見に映る自分の顔を確かめると、横から洋が覗き込んで来た。 「丈……どうした?」 「どんな顔をしている?」 「凄腕のドクターの顔だよ。丈先生」 「洋……」    私を鼓舞するように、洋が背伸びして濃厚なキスをしてくれた。  唇と手の甲に…… 「丈……これをお守りに」  洋が手渡してくれたのは、海里先生の白衣だった。  胸元には私の名前が刺繍してある大切なものだ。 「海里先生もついていて下さるんだな……よし、頑張ってくるよ」 「応援しているよ、いってらっしゃい」  洋もまた明るく前向きになった。  朝日に照らされる洋は、私の守り神のようだと思いながら、ハンドルを握った。

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