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クリスマス特別編 月影寺の救世主 8

 翠、何を見つめている? 「夜空を……」  翠は、濡れた身体を蒸しタオルで清めている間、うっとりと窓の外を見つめていた。 「何が見えるんだ?」 「……兄弟星だよ」 「……っ」  俺の中に流れる血が、ドクンと脈打った。 「あの星は……」 「……流水さんが旅立った場所だね?」  翠は何故知っているのか。  湖翠さんは、それを知っていたのだろうか。   「あそこで湖翠さんが来るのを待っていたんだね」 「あぁ、ずっとな」 「あっ……流、見てくれ」 「星が近づいた?」 「う、うん」    俺たちが星を見上げていると、突然キラリと瞬いて、二つの星の距離がぐっと近づいたような気がした。 「僕たちの目の錯覚かな?」 「いや……今日は聖夜だ。夜空に魔法がかかったのかもな」 「流……今日は随分とロマンチックなことを言うんだな。星になった彼らも、聖夜を喜んでいるようだね」 「確かに」  その晩は翠を抱きしめて、二人で手を繋いで深い眠りについた。  翠の全てを見せてもらう逢瀬だった。  とうとうここまで辿り着いたのだ。  俺たちの愛は、成就した。 **** 「菅野くぅん……」  キューン。そんな子犬が鳴くような声を出してしがみついてくるなんて、反則だ。風太が熱を出していなかったら、襲いかかるところだぞ。  いや……そんなことは出来ない。このあどけない風太に。 「よしよし、辛いのか」 「寒い……ですよぅ」 「……可哀想に。また熱が上がるのかもな」 「ごめんなさい。迷惑かけて」 「いいんだ。俺の方こそ、こんな所まで来させて……風邪をひかせた」 「でも……嬉しいです。クリスマスに菅野くんと過ごせるなんて」  汗ばんだ額を俺に擦り寄せてくる風太が可愛くて、俺はしっかり抱きしめて、身体を擦って温めてやった。 「熱を出し切れ」 「……え」 「どうした? 熱を出し切ったらスッキリするぞ」 「でも……」 「ん?」  風太は何故か泣きそうな顔になった。 「菅野くんを恋い慕う熱は出したくないです。スッキリなんてしたくないです」  あぁ……可愛い。なんて可愛いんだ!  風太の脳内が可愛すぎて悶えてしまった。 「風太はそのままでいてくれ。下げるのは風邪の熱だけだ」 「あ……そういう意味だったのですか」 「当たり前だ。でも、そんなところも可愛いよ」  もう我慢出来なくて、風太の綺麗なカタチの額にちゅっとキスをしてしまった。 「あ……あの、お口は駄目ですよね?」 「風邪ひいてるだろ?」 「う……でも菅野くんも風邪ひいてますよ」 「風太、よく聞け! 俺は風太を今キスをしたら大変なことになる」 「大変って? 何ですか。どんな風に大変になるんですか」 「……そ、それは病気が治ったら教えてあげるよ。そうだ、明日には流さんがお粥を作りにきてくれるってさ、特効薬も持ってきてくれるそうだから、すぐ良くなるさ」    すると 風太の目がキラキラと輝き出した。 「分かりました! 早く大変の中身を知りたいので、一生懸命治します。まずは寝ますね」 「えっ?」 「おやすみにゃさい……むにゃむにゃ」  そういった途端風太は目を閉じて冬眠する栗鼠のように丸まって眠ってしまった。 「ほんと、可愛いなぁ……風太」  今年のクリスマスは最高だった。  俺にこんな可愛い子がやってくるなんて、この歳になってまさかの、サンタさんからの贈り物……いや……きっと知花ちゃんからの贈り物だ。  ずっと大事に大事にするよ、風太。  メリークリスマス!  来年もよろしくな。  

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