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新春特別編 雪見の宵 1

 今日はご挨拶から。  新年明けましておめでとうございます。 『重なる月』も、今年で7年目を迎えます。間もなく14章を終わらせる予定です。新しい章では、洋の父親のこと、薙の入試、高校生活などを書きたいと思っています。   私にとって大切な物語なので、やはりお正月の様子も書きたくなりました。  和やかなお正月の話です。ほっこりしてください♬  今年もどうぞよろしくお願いします。  では本編です。 『雪見の宵』 ****  大晦日から三が日迄は、月影寺が一年で一番忙しい時期だ。  除夜の鐘から初詣と、絶えることなく人が訪れる。  僕は休む暇もなく読経に明け暮れ、お勤めに励んでいた。  この期間だけは、人目が多すぎるので、日中流に甘えることは許されない。  一瞬たりとも気を抜けないのだ。 「住職さまぁ……冷えてきましたね」 「あぁ小森くん、君は休憩していいよ」 「……ですが、住職さまはずっと休まれていないのに」 「僕は大丈夫だよ。それより小森くんは病み上がりなんだから気をつけないと。さぁ温かいお汁粉を用意してあるから、庫裡に行って食べておいで」 「お・し・る・こ! で、では少しだけ失礼いたします」  ふふっ、喜んでくれて良かった。  あんこ好きの小森くんのために、流に用意してもらったんだよ。  小森くんはクリスマスに菅野くんのお見舞いに行ったら、何故か一緒に風邪を引いてしまい、その後暫く寝込んでしまった。だからこの年末年始は普段より大目に休憩を取って貰っている。  小森くんは年より若く見えるし、言動も幼いので、薙より年下に見えてしまうこともあるんだよ。それは……薙が大人びたところがあるせいかな。  とにかくペット(失礼!)ではなく、我が子のように可愛い存在なので、つい甘やかしてしまう。  小森くんがいない間、御朱印受付を僕は担当した。  一緒に働くのは匂い立つような貴公子、洋くんだ。 「翠さん、大丈夫ですか。少しお疲れじゃ?」 「僕は大丈夫だよ。それより洋くんこそ顔色が悪いね。流石に疲れただろう。君もお汁粉を食べておいで」 「ですが……」 「いいから、ほら言った。君に何かあったら丈に叱られてしまうよ」 「すみません……では少しだけ休んできます」  洋くんも疲れのピークなのだろう。この子は貧血を起こしやすいので気をつけてやらねば。それにしても僕一人で、これだけの人の対応をするのか。頑張ろう! 「すみません。まだですか」 「はい、お待たせ致しました」 「あの、こっちもいいですか」 「えぇ」  最近、月影寺の御朱印を求める人が増えた。きっと美しい洋くんや可愛い小森君の影響なのだろうね。嬉しいことだよ。  理由はともかく、仏門に興味を抱くきっかけになってくれたらいい。  住職として思うことは、優しく分かりやすく興味をもってもらえるように説法することの難しさ。たまに法要で小さなお子さんが後ろで一緒にお経を唱えてくれると、とても嬉しい気持ちになるよ。  今の僕が出来ることはまだ僅かかもしれないが、老若男女、様々な檀家さまに心を寄り添わせて、精進していきたい。   **** 「流さん~ おしるこくださぁい……もうヘトヘトです」 「おー、こもりん。お疲れさん。住職は?」 「僕の代わりに御朱印受付をして下さっています」 「……そうか」  翠は強情だ。俺におやつや夕食作りを命じて庫裡に閉じ込め、自分は最前線で働き詰めなんて。 「ふわぁ~ おいしそうです。あんこの香りがします。くんくん」 「よしよし食え、ちょっと住職の様子を見てくる」 「はーい」  前掛けを取って廊下に出ると、障子に手をかけたまま蹲っている青年がいた。 「洋くん?」 「あぁ……流さん……すみません。いつもの貧血なんです。立ちっぱなしがダメで……恥ずかしいです」  悩まし気に眉根を寄せる洋くんを、放っておけない。 「和室で少し横になれ」 「ですが、翠さんが一人なので早く戻らないと」 「君が先だ。真っ青だぞ」 「いつも……倒れてばかりで……俺、情けないです」 「馬鹿! 正月早々凹むなよ。それでも貧血の回数は減っているだろ」 「……はい」  しゅんと項垂れる様子が気の毒で、放っておけなかった。 「温かいおしるこを持ってくるから、待っていろ」  翠の元に駆けつけたい気持ちには、今は蓋をした。  翠は今は気が張っているので、きちんとこなしているだろう。  翠に必要なのは、今宵の俺だろう。  三が日も終わり、明日からはぐっと人も減る。  だから……今宵はゆっくりと労ってやろう。 「あ……流さん、寒いと思ったら雪が……」  おしるこを届けると、洋くんが窓の外を指さした。 「これは積もりそうだな。翠の様子を見てくるから少し休め」 「本当にすみません」 「謝るなって」 渡り廊下に出て、もう一度空を見上げると、雪がはらはらと降っていた。  この分だと……夜には離れで翠と雪見が出来そうだ。  離れの月見台にも、雪が積もるのか。  あの場所で……翠をこの腕で抱きしめて、酔わせてやりたい。  雪見酒に、いや、この俺に…… そう思うと途端に元気が出た。  今は、翠の頑張りを応援してやりたいんだ。  住職の翠には、いつも凜としていて欲しい。  その代わり今宵はたっぷり甘えさせてやろう。 「翠、一緒にやろう。手伝うよ」 「流、来てくれたのか。ありがとう」 「ここは住職がいないと成り立たないから、抜けるわけにいかないよな」 「そう言ってくれるのか……流石、僕の流だな。ありがとう」  俺の翠が心から嬉しそうに、清らかに微笑んでくれた。  この笑顔、この台詞、溜らないな。 「流、どうした?」 「なんでもねーよ!」  公衆の面前で赤面するわけにもいかないので、慌てて冷たい雪で顔を冷やす羽目になったのは秘密だ。 「ふっ、流は子供みたいだね。そんなに雪が嬉しいのかい?」  はぁぁ……天然なことを……  無邪気に俺を見つめる翠が可愛くて溜らない。  本当に最近の翠は、可愛すぎて困るぜ!    

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