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新春特別編 雪見の宵 2

貧血を起こした俺は、結局そのまま離れの部屋に戻らされた。    流さんは気にするなと言うが、俺が気になるのだ。  寺の繁忙期に全く役立たずで、不甲斐ない。  翠さんの手を煩わせてしまい、申し訳ない。  くそっ、俺はどうしていつも肝心な時に貧血を起こすのか。  自分に腹を立てて不貞寝していると、クリスマスにやってきた白猫のフォーがすり寄ってきた。 「ん? フォー どうした?」 「ニャア……」  ささくれ立った心に、小さくてあどけない温もりは愛おしかった。 『フォー』は、英語の『for』から来ている。  丈が名付けてくれたのだ。 『この白猫は洋のために飼うんだ。洋のため『for you』だから、フォーにしよう』    フォーを抱きしめたまま、ベッドに丸まった。  そのまま暫く眠っていたようで、丈の声で目が覚めた。   「洋、どこにいる? 兄さんから聞いたぞ、貧血を起こしたそうだな」 「丈……」  手を彷徨わせると、丈にふわりと抱きしめられた。 「もう大丈夫なのか。まだ辛いのか」 「ごめんな」 「謝るな、無理をさせてすまない」 「無理なんてしていない。手伝えて嬉しかったんだ」 「そうだな。最近貧血の頻度は減っていたが……大晦日から働きづめの上に、昨夜も私を何度も受け入れたりするから……本当にすまない」  俺達は毎晩のように睦み合う。俺の本能が丈を求めてやまないから。 「そのことは関係ないさ。そのお陰で丈夫になったし。今日は御朱印所を任されて……朝からずっと混雑していて休む暇がなかったんだ」 「そうか……それは……洋の美しい姿を人目に晒したくない理由のひとつになるな」  丈が俺の頬を撫でて、愛おしげに見つめてくる。 「丈は心配症だな。俺は誰にも靡かないよ。丈だけのものなのに」  丈の身体からは、まだ消毒薬の匂いがした。 「丈こそ、休日出勤……大変だったな。お疲れ様」 「入院患者がいるので、正月は出てばかりだったな。だがもうすぐこの生活ともお別れだ」  由比ヶ浜の診療所……本当は昨年の夏にオープンのはずが、総合病院の方をすんなり辞められず、延び延びだったもんな。 「洋を散々待たせてしまったな」 「いや、ちょうど良かったよ。俺の翻訳の仕事も長引いてしまったから」 「……翻訳の仕事を、本当に減らしていいのか」 「もちろんさ。年末に父の縁の大切な仕事を納品し一区切りついたから、気持ちが吹っ切れたよ」 「そうか」 「あのさ、俺が翻訳したかた手前味噌になるが……本当にいい話だったよ。絶望の中に差し込む光、目映い光を掴んで浮上していく話だった」 「あの家庭教師と庭師の話か」 「そうだ。春には浅岡洋の名前で翻訳出版されるそうだよ、先生が口添えして下さったお陰で……」 「絶対に買うよ」 「ありがとう」 「丈……身体が、冷えているな」  そうか、昼間の雪が降り続いているのか。  今年は年明けから冷え込んでいた。  元旦の午前中も粉雪が舞ったが、今日の雪は牡丹雪でいよいよ積もりそうだ。    しんしんと降り続け。  厳かに白く白く……俺達の月影寺を包みこんでくれ。  睦み合う声が漏れ出さぬよう、すっぽりと。 「丈、冷えているな。 温めてやるよ」  両手を広げて、空に浮かぶ月を抱くように丈を抱きしめる。 「洋、元旦から急患でバタバタしていて、ちゃんと言えなかったが、改めて……あけましておめでとう。今年もいい年にしよう」 「丈……とうとう始まるな」 「あぁ」   あとがき **** そして……今日は丈と洋でした。 洋の飼い猫、白猫のお話は2スター特典『月影寺のクリスマス』からです。 https://estar.jp/extra_novels/25758103

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