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花を咲かせる風 2

「拓人、ボタン渡せた?」 「あぁ、薙も?」 「うん」 「じゃあ、お互い成功だ!」  帰り道、拓人とオレはにっこり笑って、グータッチをした。  朝、妙に拓人が固くなっていたから、オレから言い出した事だった。 …… 「なぁ拓人、制服のボタンには、意味があるらしいよ」 「へぇ? どんな? ……第二ボタン以外にもあるのか」  拓人も第二ボタンの伝説は知っているのか。  父さんの高校の学ランが納戸から出てきた時、おばあちゃんが不思議がっていた。 「翠はイケメンでよくモテたのに、どうしてここに残っているのかしら? 七不思議だわ」 「ここに何か意味があるの?」 「全部のボタンに意味があるのよ」 「へえ、おばあちゃんはもの知りだな~」 「伊達に三人の息子を育てたわけじゃないわ。目をね、こんな風に光らせて観察したのよ」 「おば……あちゃん、怖いよ、その目!」    おばあちゃんとのやりとりを話すと、拓人が笑ってくれた。 「薙の家って明るんだな。でもそうか……4番目は家族か」 「拓人、だから親に一緒に渡さないか。中学の記念に拓人と思い出を作りたい」 「薙……」  本心だよ、拓人。  オレ、寂しい、ずっと傍にいてくれたお前と離れるの。  だから後々一緒に語れる思い出を作らないか。   ……  一緒に登下校した道は、明日からはない。  これからは自分たちで作っていく。 「拓人、また会おう!」 「薙、春休み、一緒に遊べるか」 「もちろん!」  拓人とは笑顔で別れた。  これからも続く友達だから、涙はいらない。 ****  月影寺  ニャァ…… 「ん、どうした? 腹、減ったか」  あっ、そうか……今日は薙くんの卒業式に流さんも参列しているから、いないんだった。いつもなら、そろそろ流さんが暖かい餌を持って来てくれる時間なのに。 「よし、ちょっと待ってろ」  買い置きのキャットフードを与えてみたが、子猫の食は進まないようだ。  丈がプレゼントしてくれた白い猫が、寂しげな顔で俺を見つめてくる。   「……そうか、お前も……温もりをしってしまったんだな」  猫を抱き上げて、そっと抱っこしてやる。 「うわっ、だいぶ重くなったな」  そのまま一緒に外に出た。  少しだけ、人恋しくて。  少しだけ、待ち遠しくて。 「きっと、皆、そろそろ帰ってくるよ」  猫を胸元に抱きしめてまま、山門で待つことにした。 「まだかな?」  そうか、家族の帰りを心待ちに出来るのって、こんなに嬉しいことなのか。  やがて見えてくる。  学ランのボタンが無くなり、白いシャツが見え隠れしている薙くん。  仕立ての良いスーツをビシッと着こなした翠さん。  二人を守るようにそびえ立つ流さん。  三人並ぶと、とてもバランスが良い。 「あっ、洋さん!」  やがて列から薙くんが飛び出して、俺のもとに走って来た。 「薙くん! 卒業おめでとう」 「洋さん、ありがとう! にゃんこ抱っこしていい?」 「もちろん」  胸元の温もりが離れても、俺の心は温かいままだ。  翠さんも流さんも、俺の元に駆け寄って輪の中に入れてくれる。 「なんだ、洋くん、腹、減ったのか」 「洋くんはお腹を空かせてしまったんだね」 「え? そんなことはナイです」  グウゥゥー 「ははっ、腹は正直だな」 「流、今すぐご飯にしよう」 「は……恥ずかしいな」  最近、妙にお腹が空く。 「洋くん、腹が鳴るのは、生きている証拠だ。恥ずかしがるなよ」  クゥゥゥ――  すると、今度は薙くんが鳴らした。 「オレも腹減ったー!」 「よしよし、二人は腹ぺこ兄弟みたいだな」  俺も団欒の中に、溶け込んでいく――  あたたかい場所にいる。  

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