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新春特別番外編 雪の毛布 4
明け方、雪がぴたりと止んだ。
それからゆっくりと夜が明けていくのを、雪見硝子越しにひとり楽しんだ。
遠い昔、夜明けは別れの合図だったが、今は違う。
愛おしい人を今日も丸ごと愛せる喜びを感じる一時だ。
腕の中で静かな寝息を立てる翠。
乱れた髪をそっと整えてやり、もう一度深く掻き抱いた。
昨夜……雪明かりに浮かび上がる翠の白い身体に息を呑み、その清廉とした美しさに恋い焦がれ、何度も細い腰を掴んでは欲望を注ぎ込んでしまった。
何をしても翠は許してくれる。
「僕もそれを望んでいた」
その一言で、少しの罪悪感を帳消しにしてくれる。
「流石に疲れたよな。少し休め」
目覚めた時に裸のままでは恥ずかしがると案じ、枕元に用意していた真新しい浴衣をさっと着付けてやった。
翠はよほど疲れてしまったのか、目覚めない。
長い睫毛だ。
整った鼻梁と淡く色づく唇。
何もかも俺好みに整っている。
浴衣で隠れた部分には、俺がつけた花が散らばっているだろう。
真っ白な雪の中咲く赤い牡丹のように。
一度きちんと着付けた浴衣を、今一度はだけさせたくなる事後の朝だった。
****
翌日、僕は気怠い身体を気遣いながら、住職としての勤めを恙なくこなした。
参拝客も落ち着いた夕刻、小森くんがワクワクした顔でやって来た。
「住職さまぁ、少し雪で遊んでもいいですか」
「いいよ。流、遊び相手をしておやり」
「えぇ、なんで俺が?」
「流は全然疲れていないようだから、もう少し体力を使っておいた方がいいような気がして……」
僕は、なんてことを。
これでは、まるで今宵も契ろうと言っているようではないか。
すると流が愉快そうに肩を揺らした。
「ふっ、可愛いことを。俺の体力が不滅なのは知っているくせに」
「あ、遊び相手がいた方が、小森くんも楽しいだろう」
「それはそうだ。昔は兄さんが相手をしてくれたよな」
「うん、僕はここから見ているよ」
僕たちが小さい頃、雪は今よりもっと頻繁に降った。
よく流と雪だるまや雪兎を作ったのを思い出していた。
最近は雪がこんなに積もることは滅多にないから貴重だな。
「流さん、僕に雪うさぎさんをつくってください」
「任せろ」
小森くんがあまりに嬉しそうに雪と戯れている様子を見て、ふとあの子のことを思い出した。
夏に温泉宿で偶然出逢った静留くん。
天真爛漫な彼にまた会いたいな。
あの子は、こんなに深い雪を見たことがあるだろうか。
きっと今の小森くんのように大喜びしてくれるだろうな。
小森くんにも同年代の友人がいたらいいと思うし、ここにお誘いしてみようか。
天気予報を確かめると、この一週間は関東でも北国並の寒い日が続くそうだ。
雪は暫く、月影寺に留まるだろう。
僕は背筋を伸ばして正し、筆をしたためた。
あの子は漢字が苦手そうだったので全部平仮名で……
「しょうかんのじきとなりましたが、いかがおすごしですか。ゆきがふって、おてらのにわは、すっかりふゆもよう、です。しずるくん、とうやくん、もしもおじかんがありましたら、ぜひ、あそびにきてくださいね(小森くんや流と)ゆきあそびなどもできますよ」
筆を置いて一息ついていると、流が息を切らせてやってきた。
「翠に見せたくて、写真を撮ってきたぞ! どうだ? 月影寺の雪景色は見事だろう」
真っ白な雪で覆われた銀世界は圧巻だった。
これは僕たちだけで独り占めするには勿体ないね。
すぐにでも手紙を投函しよう。
「流、この写真を現像してくれないか」
雪景色の写真を添えて……
****
他サイトの話で申し訳ありません。
新春スペシャルで沈丁花さんの『朝日に捧ぐセレナーデ』https://estar.jp/novels/25665253の東弥くんと静留くんとクロスオーバーします! 翠のお手紙の部分は沈丁花さんのお話の抜粋になります💕
(沈丁花さんが書いて下さった話は、後日エッセイにてお披露目しますね)
彼等とは夏の温泉旅行で知り合った設定になっています。
30スター特典「とろけたい」で登場しています。
このスター特典は翠流を溺愛して書いたノリノリな話です。
https://estar.jp/extra_novels/25922820
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