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小話・桜色恋路
今日は小話で、読み切りでこもりんの話です。
雨の月曜日、梅雨入りした地域も多いようですね。
そこでベトベト、じめじめを吹き飛ばす、明るく可愛く元気な話を書きたくなりました。
参考……
幸せな存在『湘南ハーモニー』7
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春うらら。
清らかな朝日を浴びながら江ノ電に揺られる俺は、すこぶる上機嫌だった。
何故なら、昨日は江の島会館で装飾の仕事をしたので、そのまま実家に泊まることにした。リーダーにその旨をチラッと話すと、なんと今日は午後出社でいいと言ってくれた。
リーダーっていつも優しいよな。これはもう恋人(風太)に会ってこいと背中を押されているようだ!
というわけで、俺は早朝から月影寺に向かっている。
この時間なら風太はもう朝のお勤めをしているだろう。
可愛い小坊主姿を拝みに行くぞ!
「着いた!」
こんな朝早くから北鎌倉駅のホームに意気揚々と降り立つ人は、俺くらいだろう。
ところが朝からビシッとブラックスーツを着込んだ男が向かいのホームに立っていたので驚いた。
逆光でよく見えないが、どこかで会ったような? 必死に目を凝らして確認すると……なんと!
「あ、あれ? 確か涼くんの……」
「おぉ? ええっと管野くんでしたよね。夏の海で会った鷹野安志です!」
「あぁやっぱり。! こんな朝早くからどうしたんですか」
「実はようやく仕事が終わったので、恋人の元に駆けつける所です」
屈託のない笑顔で笑う鷹野くん。これは負けていられないな。
鷹野くんの恋人は、洋くんに瓜二つの従兄弟で、名前は涼くん。
二人は夏の海でも、かなりいいムードだった。
彼、清楚な色香を振りまいていたよな。
いや、俺の風太の甘さには適わないが。
「もしかして、管野くんも朝から恋人の元に行く所ですか」
「実はそうなんです」
「あ、じゃあ管野くんの恋人って北鎌倉在住なんですね」
「えっと……在住ではないけど職場があって……昨夜は俺、江ノ島の実家に泊まって、今日は午後出なので、時間があるので一目会おうかと」
「俺も似たようなもんです。やっと夜勤が明けたので、涼に一目会いたくて」
あの夏、君たちと別れた後、瑞樹ちゃんたちを月影寺に送った。その時初めて風太と会ったんだ。懐かしいな。鷹野くんは俺と月影寺の小坊主が付き合っていることは知らないようだ。
「あれ? 同じ方面?」
「そうですよ」
「?」
そこからはお互い何故か無言になり、一気に坂を駆け上がった。何を競っているのか分からないが、いつの間にかどちらが早く恋人の元に辿り着くのか競っていた。
「負けるもんか!」
「こっちこそ!」
学生時代に散々バレーボールで鍛えた身体だ。こんな坂道どってことない。
しかし相手が悪かった。
相手はボディガードもこなす相当タフな奴。
大汗をかいて辿りついた月影寺。
「あれ? ここなんですか、管野くんの恋人の勤め先って」
「そうですよ。涼くんは、ここに泊まっているんですね」
「あー これはオフレコで」
「もちろん! 秘密は守ります」
「それより誰だろ? ここは女人禁制だったよなぁ」
「女人禁制ではないが、男しかいない寺ですね」
「そして俺たちも男だ」
ニヤリと笑うと、鷹野くんも俺の立場を理解したようでニヤリと笑った。
二人で山門を見上げれば、桜の花びらがはらはらと舞ってきた。
「今年の桜は早かったな。春本番を待たずに散ってしまうなんて」
鷹野くんがぼやいたが、俺は違うと思った。
「俺たちの桜は満開だ、いつだって」
「確かにそうだな」
タタタッと階段を駆け下りる足音がした。
ほらな、やっぱり俺たちの桜は満開だ!
「安志さん、来てくれたんだ!」
「涼!」
若々しい涼くんは淡い桜色のシャツを着て、鷹野くんの胸元に軽やかに飛び込んだ。
続いて、来た来た!
「かんのくーん!」
「風太!」
風太は見たことのない桜色の衣装を着て、髪に桜の髪飾りをつけていた。
そんで、くるくる、くるくる、桜餅の妖精みたいに舞いながら、俺の胸に飛び込んでくれた。
「風太、今日はすごいお洒落をしているんだな」
「わぁ、分かって下さるのですね。はい! 流さんが作ってくれたのですよ。僕、菅野くんに見て貰いたかったので嬉しいです。まさか朝から来てくれるなんて……本当に本当に嬉しいですよー」
「風太~ 食べちゃいたい位可愛いよ!」
「本当ですか! 菅野くん、大好きですよ」
桜色の衣装と同色に頬を染める風太が可愛すぎて、頬にチュッとキスをした。
チラッと横を見ると、鷹野くんと涼くんが竹林に隠れるように甘いキスをしていた。しっかり抱き合いながら繰り返されるのは、熱を孕んだ深いキスだった。
この二人も俺たちと同様に、心から求め合っている。
「わぁ素敵です……僕もあんな風にしてみたいです」
「了解! 風太、大好きだ!」
朝からこんなことを叫べるのも、ここが月影寺だからだ。
俺の恋人は寺の小坊主、あんこが大好きな子だ。
でも近頃あんこよりも俺の方が好きだと思えるようになってきた。
恋の速度は人それぞれ。
この恋は俺たちだけのものだから、それでいい!
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