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はじまり 7

「それって、どういう意味?」 「別に…深い意味はない。吐いたり道でぶっ倒れたりしたのにスーツが汚れなかったなという意味さ」 思わず真意を知りたくて尋ねてみると、丈はそれとなく目を逸らした。 本当にそれだけだろうか?もっと違う意味が籠っているように感じたのに… いずれにせよ弱みを見せてしまって気まずいのと同時に、俺を純粋に助けてくれたことへ感謝の気持ちが芽生えた。 「迷惑かけてすまなかった。あの…俺、そろそろ職場へ行かないと…」 「あぁ…お前のところの上司には連絡してあるから、何か水分を取ってから行け。あとシャツが寝汗でびっしょりだろ。これに着替えろ」 「えっ!いい…このままで大丈夫だ」 冗談じゃない。ここで着替えろっていうのか? 俺の妙な戸惑いを読み取ったのか、丈はベットの上に新しいシャツを置くと、バタンとドアを閉め、隣室へ行ってしまった。 もしかして…気を遣ってくれたのか? 俺は人前で肌を見せるのが苦手だ。 それに気づいてくれたのか。 **** 青白い顔をして、ずいぶんとうなされていたな。 女みたいに綺麗な顔をしかめ、額に汗を浮かべる悩まし気な寝顔は、下手な女よりずっと艶めかしく、変な言い方だがそそられるものがあった。 私はそんな邪の思考が自分に湧いてくること自体に、驚きと戸惑いを覚えた。 なのですぐに頭をふって、そんな思考を己の中から追い出すことに専念した。 うなされている洋の額の汗をタオルでふいてやり「お前は汚れてなんかいない」とそっと耳元で声をかけてやった。 暗示のようなものだが… その言葉に反応して、洋は急にほっとしたような表情になり、呼吸も落ち着いて深い眠りに入ったのだ。 呼吸が整うと、苦しそうな表情は消え去り、安らかな寝息を立て始めた。 そう…女と見まごうような深い影を落とす長い睫毛に、整った鼻筋、淡い桜色の唇が上品で美しい…こんなに美しく生れついたのに、こんなにもそのことで苦しんでいるなんて… 君のその悩みをなんとかしてやりたい。 安心させてやりたい。 **** 温かい紅茶を入れ、ドアをノックすると少し照れた声が帰ってきた。 「どうぞ…」 やっと私への警戒が少し緩んだみたいだな。 洋の声からとげとげしさが和らぐと、何故かうれしいものだ。 身支度を整え俺に少しだけ微笑みを向けてくれた洋の綺麗な笑顔に、思わず私は心臓がきゅっとなり、鼓動が早まるのを感じ動揺してしまった。 本気でやばいな、これ。相手は男なのに。
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