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雨に濡れて 12
震える……冷えた身体を温めてあげたくなった。
凍える……その心を温めてあげたくなった。
強く抱きしめて背中を擦ってやると、洋の躰の震えは止まり、荒かった息も整ってきた。そして次第に朦朧とした意識の中から覚醒してきた。
「……えっ?」
私に抱きしめられていることに気付いたようで、腕で頼りなく押して離れようとする。
「丈……何だよ……これ、離せよ」
「君はこんなに濡れて……風呂を沸かしてやるから温まれ」
「……」
「もしかして私に怒っているのか……もしかして妬いたのか」
途端に、洋はかっと顔を赤く染めそっぽを向いた。
「なっ何で俺が男に妬くんだよ!」
首まで真っ赤になっていて、どうやら図星のようだ。そのことが嬉しい。
「もしもそうならば、私は嬉しいよ」
「え!?」
「私は洋のこと気になっているからな。あれから彼女を送り届けてすぐに帰宅したんだ」
「なっ!」
洋はますます顔を赤らめて動揺する。
「さぁこっちへ来い。風呂に入れ、風邪をひくぞ。」
洋を横に抱いたまま移動しようとすると、足をばたつかせ抵抗する。
「はっ離せっ!こっこんな抱き方変だ!一人で歩ける!」
「ふふっ以前会社に行くとき倒れた時も、こうやって抱いてやったんだから照れるな。初めてじゃあるまいし」
「なっ何を言うんだよっ!」
顔を真っ赤に染めた洋を脱衣所で降ろしてやると、私を両手で廊下へ押しやりドアを閉める前に、こちらをキッと睨み「覗くなよ!」言い放った。
私は、思わずその表情が可愛らしくて苦笑してしまった。
****
近い。
抱きかかえられると丈の鎖骨に俺の頬があたり、男らしく逞しい胸板を直に感じた。そして力強く脈打つ心臓の鼓動が聴こえてきた。
どうしてなんだよ。どうして……この男の肌は、こんなにもしっくりくるのか。俺はこれ以上見つめられるのが恥ずかしくなりバスルームのドアを閉め、ドアにもたれた。
丈に強く抱きしめてもらった躰が熱い。俺の身体は一体どうなっている?いつもなら同性に触られるだけで気持ち悪くなっていたのに、丈に触られた身体はもっと強く抱きしめてもらいたく彷徨い求め、熱くなっていく一方だ。おまけに……あぁこんな姿見つかったら最悪だ。まさか……硬くなるなんて!
乱れる息を整え濡れた服を一枚一枚脱いでいくと、重石が取り払われ羽が生えたように心が素直に踊り出した。
もしかして俺は……丈を好きなのか。
俺が、男の丈を?
そんな……ありえないよな。だが……
丈に抱きしめてもらい触れてもらうと、不安が取り除かれて心が落ち着くんだ。
くそっ何故こんなことに?
丈の腕の中は居心地がよく、もっと強く俺の心が零れ落ちないように抱きしめて欲しいくらいだった。
次々と浮かび上がる恥ずかしい考えを沈めるために、シャワーを勢いよく浴び再び脱衣場に戻った。そこではたと着替えがないことに気が付いた。
バスルームに強引に連れて来られたから着替えがない。着ていた服はびしょ濡れだし……どうしよう。
ふと目をやるとドアのフックに、丈の白いバスローブがかかっていたので手に取ると、先ほど間近で嗅いだ丈の香りがふわっと香った。それだけで胸の奥が疼くなんて。本当に俺はどこかおかしい。
結局思い切って水滴のついた躰にバスローブを直接羽織って、廊下へ出た。
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