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雨に濡れて 13
ドアが開く音がしたので視線をそちらにやると、そのまま固まってしまった。
おい洋……その姿は、反則だろう!
あまりの衝撃にくらくらと眩暈がする。
洋の頬は風呂上がりで桃色に上気し雫が残る細身の躰に俺のバスローブのみを纏っている。 細いうなじに濡れた黒髪が貼りつき、一層艶めいて見える。
私と視線がぶつかった洋は、カッと顔を赤らめた。
「あっ……あの……着替えなかったから、これを借りた」
プイっと顔を逸らし自分の部屋へ足早に駆け込もうとするその細い腕を 、私は慌ててぐいと掴み引き留めてしまった。
「待て。ミルク温めるから飲んでいけ」
「おっおい?」
掴んだ手首を強引に引いて、リビングに連れてくる。
「そこに座っていろ」
「えっ?……ああ」
恥ずかしそうにソファに腰を降ろそうとした洋は、バスローブ1枚しか纏ってない足元を気にしてか何度か座りなおした後 、素直にマグカップを受け取った。
「ふぅ……温かいな。ホッとするよ」
洋が口元を緩めほっとした表情をした瞬間、花のように綺麗に微笑むその姿に目を奪われてしまった。
「どうした?」
その視線に気が付いた洋が不思議そうに尋ねてくる。 私に気を許し、穏やかな微笑みを浮かべた洋は、もう警戒したピリピリした様子はなく、ひたすら素直で可愛い雰囲気しか纏っていなかった。私は湧き上がる理性を抑えるのに必死だ。
「いや、何でもない。少しそこで寛ろぐといい。私は仕事をしてるから」
そう言って、無理矢理後ろを振り向きPCに向かった。
「そうか。なら少しここにいるよ。あっ丈は気にしないで仕事を続けてくれ」
仕事なんて言い訳だった。あまりに可愛くて直視できなかった。これは……どうしたらいいんだ? 男だぞ 、相手は。何故私は、こんなにも洋に欲情しているのか。しばらく無言でPCに向かい意を決して振り向くと、ソファの背もたれに頭を預け、すやすやと可愛い寝息を立てている洋がいた。
「……!」
少し肌蹴たバスローブの裾からは、綺麗なすらりとした白い太腿がのぞいている。 手にはマグカップを持ったままだ。
「ふっ……持ったまま寝るなんて、器用だな」
思わず笑みがこぼれ、そっと手から外してやる。 そうするとそのまま俺の肩にもたれてきたので、温かい温もりを直に感じることが出来た。消えそうな儚げな雰囲気を漂わす洋の生きている温かさに、思わず涙が込み上げて来た。
本当に一体この感情はどこからやってきたのか。
私に芽生え、グングンと育っていく洋への想いについていけない。
洋に触れたい 。抱きしめたい 。
とうとうその欲情に負け……寝ている洋の顎を掬い、そっと唇を重ね合わせてしまった。洋の唇は想像よりもずっと 柔らかく 、温かく、そして甘く美味しかった。
ぐっと高まる欲情を必死に押さえつけ、彼を再び横抱きにして部屋まで連れて行ってやった。
このまま抱いたら。
このまま抱けたら。
だが意識がない洋の寝込みを襲うような真似は出来ない。
洋……君は私のことをどう思ってる?
私に触れられても大丈夫か。
そっとベッドに降ろしてやると、「ん……」と布団の中で躰を無意識に丸めていく。そんな洋の横に腰を降ろし、頬にかかる髪を耳にかけてやった。 そしてその綺麗な頬に優しくもう一度だけと、口づけを施した。
天使のような洋を汚してしまいそうで 、寝ている洋相手にこれ以上のことをするのが憚られ、私は欲情を打ち消すように耐えるようにぎゅっと拳をつくり、そっと布団をかけて部屋を後にした。
洋がその時うっすらと目を開けたのには気が付かずに……
私は部屋を去った。
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