「普通にいつもの調子で帰った。でも翌朝速攻で制服を「当日仕上げます！」なクリーニングに出したってことだろ？ 『辞めます』以外、理由もなにも書いてないしさぁ。叱ったわけでもないし、客とトラブったわけでもない。飯塚、なんか気が付いたか？」 「いつもの軽い木之下だったな。オーダー間違いやポカミスもなかったし」 「無責任にも程がある……むかつく」 　無口モードだったハルが、いきなり地べたを這いずるような低いトーンです。相当なお怒りモード。 「正明？何かあったのか？」 「恋愛のモツレです」 　サトルと飯塚の顔が引き攣る。え？なに？恋愛のモツレ？それってどういうこと？ 「北川まさか。キイイイって？」 「正明まさか。油注いで大火事に？」 　ハルは立ち上がり、ガバっと頭をさげた。 「ここをあがったあと、木之下さんに好きだと言われました。でも僕はああいう人、嫌なのでハッキリ・キッパリ・ズバっと、断りました。辞めたのはそれが理由です、すいませんでした！」 　あ、そういうこと。 「正明、ハッキリ、キッパリって？」 「未練なんか飛び散るように、容赦なく徹底的に「お断り」したってことですよ。 理さんは苦手でしたよね、お断りするの。この点では飯塚さんと気が合うみたいです」 「北川、そこで俺を巻き込むな！」 「あの……聞いていいデスカ？皆さん」 『？』を浮かべる３人。えええと……うわ！すごいじゃないの、この集団。 「木之下ってゲイっつうか、そっちだったの？」 「ミネさん違います。僕がゲイで、木之下さんはノーマル。僕の天使の微笑みにやられたノンケです」 「んがぁ！！」 　ポカーンとしているサトルと飯塚。え？なに、知らないの俺だけ？ 「ええええ～ハル、知らんかったぞ！え？じゃあ、この店ってなんか特殊な環境？俺もそうなるべき？ 俺だけ仲間外れ？」 「俺も飯塚も女としかつきあってこなかったし自分がゲイだと思ったことはないよ。 飯塚以外の男と寝れるかって言われたら無理だし、俺にとっては飯塚限定なんだ。 だから自分の立ち位置がイマイチわからないけど……そこは掘り下げたくない気もする」 「それはわかる。鉄仮面がサトルを好きなのすぐわかったし。高校の頃から飯塚の周りには女しかいなかったから驚いたけど。 妙にしっくりくるから、いんじゃねぇ？な感じだし。気持ち悪いとかそういうのもないし」 「ミネさん、それって僕は気持ち悪いってことですか？」 　地べたからの声パート２。 「そんなこと言ってないだろうが、ハルはかわいいぞ、マジで。お前が気持ち悪かったら、この世の結構な人たちがキモイ族になってしまう。俺はそう思う！」 「ミネさん！そうじゃなくて、同性を好きになる人間が気持ち悪くないのかってことですよ！」 「ハル、んじゃ俺が気持ち悪いって言ったとするよ？じゃあ、これどーすんの？」 　俺はサトルと飯塚を指さした（人差し指は失礼なので親指で） 「好き同士が一緒にいる。そんな二人にしか見えないよ、俺には」 　立ったままのハルをイスに座らせて、俺はその前にしゃがんだ。俺が見上げる位置になるけど、ちゃんと顔が見える。 「いいか？誰も気持ち悪いなんて言ってないのに、自分からそういうこと言っちゃダメだ。 最初に会った時も「自分なんか」って言っただろ？ あの日言ったよな、一緒に働きたいと思える人だって。それなのに、俺が気持ち悪がるってハルは考えたの？それはちょっと悲しいな」 　ハルは目を見開いて俺を見下ろしている。握られた両拳にそっと手を重ねた。 「大丈夫、お前はかわいい。仕事もできるし、お客さんも喜んでいる。いいじゃないか男が好きでもさ。 俺にしたら、飯塚みたいに無駄に男前のいろんな表情を知ってるサトルが羨ましいと思うし、時々おっかないサトルをフニャフニャにしている鉄仮面をずるいと思うわけ。 頑張り屋のお前が誰かに甘えてるかもしれないのは若干シャクに触るけど。その相手が男だろうが女だろうが。俺は羨ましいよ」 「ミネ……さん」 「木之下程度のヤツとつきあってたら、俺が不機嫌になるとこだったよ。だから結果オーライだ。さてと、皆でこれからを乗り切る方法を考えますか！」 　クリーニング無責任、元バイト君の話しをしていてもしょうがない。起こってしまったことを悔やむより、どう対処するか考えて動くほうが建設的！ 　うし、頑張るぞ俺！