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つづき

「高2の時に付き合っていた人がいました。違う学校の1コ上の先輩です。ある日、コトに及ぼうとした時に踏み込まれちゃって」 「誰に?」 「先輩の母親に」 「そりゃあ、結構な修羅場だね。それで引き離されたってことか」 「僕がたぶらかしたって。たしかにあっちは彼女がいたこともあったし、先輩の親としては普通の息子を血迷わせたのは僕のせいだって、すごい勢いだった。 先輩は卒業まで3ケ月だったし、大学は東京に決まっていたけど、ご両親は同じ町に僕が住むことに我慢できないって。その時から札幌で一人暮らししています。江別と札幌じゃ目と鼻の先じゃないかって思いましたけど、収めるにはそれしか方法がなくって」 「はっきり言えばこういうことね?一つ屋根の下で恋愛対象である男と住むのはど~なの?ってことだろ」 「……」 「確かにそれは俺も軽率だったかもだな。たとえばこれが女の子だったとしよう。うちの店で働いてくれるか?余っている部屋に住まわせてやる。こんなこと言ったらセクハラエロオーナーだよな、普通に考えるとさ」 「でもそれってミネさんに失礼ですよね。ミネさんはゲイでもなんでもないのに、余計な事を勘繰った親にちょっとイラっとしたといいますか……です」 「結局のところ、どうであってもご両親は心配する。当たり前だよ。 例えば、ハルと俺が付き合っていたとして一緒に住みますっていったら、オイオイ!ってなるわけだしさあ、どう転んでも大事な息子を心配する親の姿だ。 まかせなさい、俺がなんとかしますよ。 それとも、ご両親のいうように一人で暮らす方が気楽なら、いんだよ?ハル」  確かに一人暮らしは気楽だ。ここで働けば、食事の心配をする必要もない。付き合う相手ができたとしたら、一人でいれば何かと便利ではある……あるけど。 金銭的な魅力はもちろんだけど、ミネさんと一緒にいれば文句なしに楽しそうだって思うわけです。ワクワクできそうな期待感がある。 「僕はお世話になりたいです」 「ほんじゃ、相思相愛ってことでOKだな。誠実オーナーとしてご両親にお会いいたします」 「よろしくお願いします」  ミネさんは立ち上がって厨房にいくと、コーヒーポットを片手に戻ってきた。それぞれのマグに注いでイスに座る。本当はこれ僕がやらなくちゃいけないことなのに、まだまだ気が利かないと反省。 「それにしても麗しき青春時代に随分ヘビーな経験してるんだな、ハルは」 「ありがちな話ですよね。でもどうにもならないことを悩んでも仕方がないって考えなおしました。 家族にカミングアウトするにあたって悩む間もなくバレたので良しとしようとか。遠距離なんて無理だろうとお互いわかっていたのに別れるのどうしようかと悩んでいたから解決にもなったし。そう考えたら悪いことばっかりじゃないって」 「物は考え様か、確かにね」 「理さんにフラれたのだって、今となっては正解って気がするし」 「んあ?ハルってば理が好きだったわけ?」  うげっ!つい言わなくてもいい事まで言ってしまった。だってミネさん聞き上手だし何でも受け止めてくれそうなんで、誰かに言いたいけど我慢してることを言ってしまった。ううう。 「コンビニによく飯塚さんと来ていて。優しそうな人だなってずっと見ていただけです。なんか元気がなくなって、びっくりさせたら少しは元気になってくれるかなってバレンタインデーにチョコを渡しました」 「コンビニで?」 「はい、クランキーチョコ5枚」 「うわ、ハル。お前かわいいことするね~」 「次の日わざわざ返事しにきてくれて、ホント思ったとおりの人だなって感動しちゃいました。それでお友達になってもらいました」  ミネさん両手を首の後ろで組んでイスの背もたれに凭れた。面白そうに少しだけ笑みを浮かべて遠くをみる姿は、なんて言ったらいいのかな?幸せそうで、子供みたいで、ワクワクが伝染してくるような不思議な感じ。 「そのクランキーがなかったら、ハルはここに居なかったってことだろ?その先輩とうまくいっていたら、一人暮らしをしていなかったわけだ。飯塚のマンション近くのコンビニでバイトだってしていないし。 俺思うけどさ、恋愛に正解も不正解もないんじゃないかって」  理さんに振られて正解!←これはどうですか?ミネさん的に。 「ようは選択の結果だよなって。その時自分が選んだことが結果につながる。間違いだった、正解だったってのは結果をみて判断することで、最初に選択したのは自分だろ?」 「それはそうかもしれませんね。ミネさんの選択は今までどうでしたか?」 「俺?」  ヨッコラショと足を組んで自分の膝あたりに視線を落とした。静かでちょっと寂しそう。 ミネさんの表情はクルクル変わる。 「俺の選択の最優先項目はSABUROなわけ。食材はほっておけば傷むし、お客さんを逃したらもう来てくれないかもしれない。ここに来ることを楽しみしているお客さんを思えば、自分の都合で休むわけにもいかない。だから彼女はつねに後回しになる。だから結果はさんざ~~~んです」  ニャハっと笑っておどけてみせるミネさんの目の奥が少し悲しそうで、なんだかとっても可哀想になった。そして腹が立つ。  ミネさんだけじゃない。理さんも飯塚さんも頑張っている。やらなくちゃいけないことは沢山あって、それでも目標にむかって進んでいるのに……散々ってなんだって思いませんか?恋人ならシャンとしろと言いたい! 「後回しと蔑ろは違うと思います。最優先が必須だというなら、それをくれる男にくっついていればいい」  ミネさんはビックリした顔をして僕を見た。あ……言ってしまった!(しかも本音を) 「わっはははは。すっげ~~ハルってば男前!いやあ、かわいいくせに格好いいとは恐れ入った!いやあ~すっきりするねえ!あははは」  ミネさんは文字通り腹をかかえて笑っております。ええっと、この爆笑で説得の件ふっとんでいませんよね?大丈夫ですよね?ミネさん!

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