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つづき
ハルが両親のオーダーをとってきた。
「オーダーお願いします!ポモ2です」
「はいよ」
シンプルなパスタだったから、出そうとした料理とバランスもとれる。
「お願いしま~す」
お願いしますと厨房から声をかければ料理があがったサイン。ハルがやってくるまでの間に盛り付けの最終チェック。うし、うまそうだ。
「はいこれ、ブロッコリーのガーリックオイル和えとカプレーゼ。ブロッコリーはビタミンCがみかんの4倍だぞ?お肌にもいいし疲労回復にもなる、万能君だ。カプレーゼは特製バルサミコドレッシングでどうぞ。これはご両親への賄賂!」
「ありがとうございます」
「いつものように、いつものように、わかった?」
「はい!」
素直でよろしい。カウンターに座っていたすずさんが不思議そうにやりとりを見ていた。
「何かあったの?実巳君」
「卒業したらここで働いてもらおうと思ってるんですよ、ハルにね。でもご両親が心配しちゃって乗り込んできたってわけ。ラストオーダーになったら俺真剣に説得というかお願いしなくちゃいけなくて」
「あら、そうなの?でもハル君いなくなったら私だって困る!」
「心の中で応援してください」
「あからさまに応援して帰るわよ。チェックお願いね」
すずさんはサクサク会計をすませてバッグを肩に掛けた。じゃね、と手をふって出口に向かっていく。あいかわらずヒールのコツコツが格好いいですね。大人の女性で仕事ができるって、眺めているだけでも気持ちがいい。ハルはすずさんの姿を認めて声をかけた。
「ありがとうございます。午後の仕事がんばってください」
「こちらこそ、ありがとう。ハル君にそういってもらえると頑張れるわ。あなたはこの店の宝なんだから。 お客さん皆を元気にしてあげて。また逢いにくるわ、じゃあね、ハル君」
すずさんはハルのほっぺたをキュとつまんで、見惚れるような笑顔を見せてくれた。ちょっと声がいつもより大き目ですよ?すずさ~ん。
すずさん効果はバッチリ。店内のお客さんが今のやりとりを聞いてハルに視線を送っている。もちろんご両親も。出ていくすずさんに深々と頭をさげてお辞儀しているハルの後ろ姿は、すずさんの言葉を裏付けているように見えた。
丁寧でイイコ、そうハルはSABUROの宝だ。
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