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つづき

 すずさんが出ていった入口に二人のシルエット。あれ?んんん?何故?なんで? 「俺が電話した。応援団は多い方がいい、無愛想な俺よりいいだろう?二人揃えば最強だ」  あはは、だね、間違いない。さすが飯塚、こういうそつのないところがリーマン時代の姿を想像させるね。要領よくそつなく先回りで物事を潤滑に進めていたんですね、鉄仮面君。  魔法使いのおじさんと理さまご来店。さあ、ニヘラオーナー実巳の出番だ。SABUROに預けて大丈夫だって納得していただきます。頑張るもんね、俺! 「ラストオーダー、追加ありません」 「了解。ご両親の食事は?」 「終わりました。コーヒー飲んでます」 「なんか話した?」 「いいえ、お客さんまだいらっしゃいますし」  14:00ラストオーダーでクローズが14:30。ギリギリ滑り込んだ客もいるからハルの仕事が終わったわけじゃない。でも追加がないってことは、俺のお仕事は終了。しかしこれからが大仕事!今更とりつくろったって仕方がない。いつもの俺で勝負するしかないので、素でいかせていただきます。  ご両親のテーブルの横にいき、ご挨拶。 「お忙しいところありがとうございます。オーナーの村崎です」  ハルはお母さん似だ。大きい目がそっくりで女装したハルみたいに見える。対するお父さんはやや厳しめに見えるけれど、第一印象なんてあてにならないと思っている俺はニッコリしてみた。お母さんはすっと立ち上がり、お父さんの隣に席を移した。そこにハルがやってきて、コーヒーを取り替えてくれる。俺には淹れたてがたっぷり入ったマグ。 「ハル、ありがと」 「さきほど野坂様よりお弁当の予約があったので飯塚さんに対応してもらいました」 「うん、あとで確認しておくよ」  ハルはちらっとご両親を見た後、軽く頭を下げて離れていった。ご両親は不機嫌そうな様子ではないから少し安心。そうはいってもスンナリはいかないだろうね。 「こちらこそ突然お邪魔しまして申し訳ない。正明から電話でいきなりここでお世話になることに決めたといわれて、少々面食らいまして。ああ見えて頑固な子ですから決心を変えさせることは難しいと思いましたが、一度どんなお店なのか気になりまして女房を連れて伺いました。オーナーさんがお若い方で驚きました」 「御心配は当然ですよ。大学を卒業してサラリーマンになるとお考えだったでしょうから、いきなりレストランで働くと聞けば不安になるのも当たりまえです。 この店は僕の父が始めた店で20年以上ずっとここで営業してきました」 「ご両親は?」 「母が海外で暮らしたいと言いだしまして。苦労をかけた分、それを実現してやろうと父が決めて僕が後を引き継いで4年になります。固定スタッフがいないことが悩みの種でしたが、友人である飯塚が会社を辞めて来てくれまして、今年の11月から飯塚の同僚も辞めてここに来てくれることになっています。ホールにはハル……失礼しました息子さんが是非必要です。 お客さんに可愛がられていますし、何より人の心を受け止めることができます。 人が本当に欲しいサービスってマニュアルではフォローできません。最終的には気持ちですから」  丁寧な言葉づかいって疲れる~息子さんなんて面倒だから、もうハルでいいや、いいことにする! 「さっきの女性は常連さんなのかしら?」 「はい。父の頃から通ってくれている方です。来るたびハルを構っていますよ。いいお客さんです」 「大学に入ってからあまり家に帰ってこなくなりまして。たまに帰ってきてもつまらなさそうな顔をしています。今日びっくりしました、ニコニコしているし一生懸命なのがわかりました。あんな顔が出来る子だったんですね」 「広美……」  反対する気マンマンできたわけじゃないっぽいね。本当に心配して純粋に様子を確かめてこよう、そんな感じだ。それじゃあ、ダメを押しますか。 「先ほど話したように、両親が海外にいってしまったので3LDKのマンションに一人住まいです。この仕事は拘束時間が長いし休みが少ない。僕は一日のほとんどをここで過ごすような生活をしているので、お恥ずかしながらなかなか彼女と長続きしないので結婚の予定もありません。 部屋は空いているし丁度いい、そんな理由でハルにこないかと言いましたが、少し軽率でしたね。その点はお詫びしなくては」 「いいえ、あまりに御迷惑なお話なのに息子が簡単に言うものですから」 「ハルが高校から一人暮らしをしていること、その理由は打ち明けてくれました」 「え?」 「だから余計に心配されたと思います。僕としてはハルが何であれ必要なスタッフです。それ以上でもそれ以下でもありません」 「いやしかし……正明が話すとは驚きました」 「お二人にとってハルは大事な息子さんであることに変わりないですよね?一般的に言うノーマルではないとしても大事な息子さんです。僕も同じですよ、ハルはSABUROの宝です。さっきすずさん、常連のあの女性です、彼女が言ったとおりです」 「だからこそ正明にはサラリーマンになって自立してほしかった。一人で生きていかれるように、しっかりした会社に入ってくれればと」 「僕はサラリーマン経験がないので憶測ですが、結婚適齢期になっても彼女の存在すらなく結婚もしない男性はどう思われるのでしょうか。ハルは容姿に恵まれていますから余計に言われそうですよね、何故結婚しないのかと。おっせかいな同僚が合コンに誘ったり、上司から見合いをもちかけられたりするかもしれない。 そのたびにハルはどんな思いをするのかなと。 ここに居ればそんな心配しなくてすみます。それにちゃんと食べているだろうか?と心配する必要もありません。僕と飯塚が責任もって美味しい賄いを食べさせますから」  そんなこと考えたこともなかった、そんなご両親の顔だった。そりゃあそうだよね、結婚できないからしっかりした会社に入って人生を安定させなくてはいけない、だって正明はゲイだから。そう思っていたはずだ。  会社員やっているゲイの人は沢山いるし、こんな心配はする必要はないのかもしれないけれど別にいい。これはそんなことがあるかもしれない、そう思ってもらう為の言葉だから。 ここにいれば安心できるかもしれない、そう二人が考えてくれれば儲け!な実巳トークです。 「正明は随分村崎さんのことを信頼しているようだ」  嫌われてはいないと思いますよ、オーナーというよりお兄さんかな?飯塚や理もお兄ちゃんなのかもしれないな。  お父さんの(お父さんって、心の中で呼んでも恥ずかしいな)ハルを見詰める目はとても優しかった。厳しそうなのは第一印象だけだ。大事な息子を見詰める愛情あふれた表情だった。 「奇遇ですな、北川さん」  何気ない風を装ってカウンターあたりで腕組みしていた魔法使いさんがゆっくりこちらに近づきながら、にこやかに一言。え?ハルのお父さんまで知り合いだというのですか?魔法使いなんて可愛いものじゃないね、こうなったら魔道士だよ!  ウィザード高村降臨!

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