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つづき

「これは、高村さん。お食事でみえられたのですか?」 「いえいえ、野暮用で」  断りもなく、俺の隣にドッカリ座ってにこやかに初めましてとハル母に挨拶してる。胸ポケットをごそごそして取り出したのは名刺入れ。俺が一生持たないアイテムだよね。俺の名刺は印刷屋がよこしたプラスティックのケースに入ったままレジの横に置いてある。スーツきて持ち歩くなんてことはないでしょうね、この先も。 「実はこういうことをやっていましてね」  ハル父の前にすっと出された名刺。え?あの、それ、見慣れまくりなデザインですけど、どういうことですか? 『 kitchen SABURO 統括マネージャー 高村充 』  いつのまに!ちゃっかり名刺まで作っちゃってますの?! 「高村さん、ロゴスはお辞めになった?」 「いいえ、二足の草鞋というか、将来的にはこっちが本業になりますね。ロゴスのほうは固定給貰うための食い扶持的なもんですよ、あははは」  アハハハじゃありません!色々助かってるし本当に感謝いていますけれど、あなたに払う給料なんて出てこないよ!って、いつからそんな事になっちゃってるわけですか。 「高村さんが関わっているとは思いもしませんでした。そうなると色々事情がかわってきますね。そういえば磯田さんの件、本当にありがとうございました。おかげで形にすることができてよかったです」 「なかなか評判いいじゃないですか、『焼き鳥放浪記』とはね。寂れた繁華街を立て直す神様が個人的趣味を満足させるために全国の焼き鳥を巡る旅。それはたぶん表向きですよね?」 「いやはや、その通りですよ。新幹線開通で函館から札幌、その周辺都市は観光客を引っ張ろうと躍起になっていますからね。開通のタイミングで室蘭と岩見沢をぶっこむ、それが目的です」  真面目に変身した俺を差し置いて、なにやら楽しそうなおっさんが二人です。イソダさんって誰?放浪してるわけ?焼き鳥食べて商売になるわけ?わかりません!まったくわかりません! 「西山に餌ぶら下げたらどうかなって考えているところです、どう思います?」  ハルの父ちゃんはまず、俺の顔を見て軽く頷いた。厨房の中の飯塚を眺めて力強く頷く。 ハルを見てニッコリ。サトルにピタと視線を合わせる。 「あちらの方は?」 「あ~あれは俺の部下。だけどロゴスからこっちに引き抜いちゃってまもなく退職予定。 辞めたあとすぐにここのホールを仕切ります。宣材関係、メニュー、POPは全部あいつの手作り。パワポで作るあたりがリーマンっぽいでしょ。ちなみに厨房の飯塚は実巳の友人。あれも俺の元部下」  ハルの父ちゃん、ニヤリ。ヒューと口笛でも吹いちゃう感じで顎があがる。 「西山は間違いなく喰いつきます。顎足枕でホイホイのってくること間違いなし」 「ですか、じゃあ声かけてみようか。アイツの「足」ならLCCで充分ですよね」 「充分ですよ、そしてここで顎、枕は引き受けますよ。安く泊まれるホテルありますから」  イソダの次はニシヤマ。わかんねえ~全然わかんね~ただ確かなことはハルの父ちゃんとおじさんが同じ匂がするってこと。ウィザードがもう一匹……やれやれ。

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