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つづき

「ちょっとみない間にハルはあんな頭になってるじゃない。ハルはぱっと見かわいいから平凡な人間が切るとその可愛さを前面に押し出しちゃう。かわいいとはいえ男だし、あれでなかなかしっかりしてるし毒も吐く。そのあたりをチョロっとだしてやると、かわいさ百倍になるのにさ」  おもわず噴きだした。バッサリ告白を薙ぎ倒して相手は店を辞めたし、コンビニのときは女を引っ叩いて辞めた。村崎や俺を相手に一歩もひかない根性がある(武本にはブンブン尻尾をふっているが) 「俺は北川をかわいいと思った事ありませんよ。俺のこと可愛いとか平気で言いますからね」 「さすが、ハルだ」  トップの毛を持ち上げたり櫛を通したりの動きに変わって、はさみが止まった。やっぱり。 どうも俺のつむじはやっかいなところにあって収まりが悪いらしい。何人にも言われたから相当面倒な髪なのだろう。 「つむじですか?」 「そ、面白い所にあるからね、これを活かせば個性になると思って思案中」  やっかいな場所が面白い場所に変わった。この短い時間であっという間に絆されたようだ。この人は面白いし職人として共感できるものがある。 「必然でここにつむじがある。だったら逆らわずに交通整理をしてやればいい。 曲がったキュウリは格好よく切れません、まっすぐのだけ仕入れます。衛、そんなこと言える? 言えないよね、素材を生かすも殺すも腕次第」  止まっていたはさみが再び動き出す。どうやらトップはそれほど短くしないようだ。この年でマルガリータはいただけない。 「それとね、今回札幌にでてきたのは報告の為なんだ。 紗江がどうしても直接言いたいって言うから、あ、今晩予約いれておいてくれる?サトと僕と紗江の3人分」 「席は大丈夫だと思います。報告?」 「そうなんだ、僕ね父親になるんだ」 「本当ですか!武本も大喜びします!おめでとうございます」 「安定期になるまで待って出てきたんだ。サトと衛には子供は無理だろ? それで紗江が「生まれてくる子は皆の子供ね」って。 惚れ直したよ、紗江は最高だろ?」  ……皆の子供。

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