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september 2.2015 ヤサ男の水面下
「そろそろクリスマス&年末感をチラ見させたほうがいいよね。
今年はもう少し早目からオードブルを告知したいし、クリスマスディナーはいつも通りするけど。あとさ、女性のグループプランをやろうかなって」
「そうだね、スタッフが去年より揃ったし大口だって対応できるよ。貸切にすれば38席はどうにかできる。
他の客がいない状態で、会社や課だけの人間しかいないとなれば、全員が揃って一つのテーブルにすわらなくてもいいしね」
ミネと話をしながら、年末を見据えた計画をきちんとしなくちゃな、頭にメモをした。
俺は8月の盆休み明けから土日祝日はSABUROに入っている。休みがないようなものだから疲れないといえばウソになるけれど、充実していた。飯塚はよくこんな生活をしていたなと思う。土曜日は俺の食事の面倒を見て、日曜日と祝日はここで働いていたわけだから。
正明のサービスもなかなか様になってきた。今はちゃんとサーバーで爪楊枝を摘まめるようになったし、仕事の楽しさを実感してイキイキしている。早いとこ卒業したいとボヤいているが、そうもいかない。
早いとこ そして課長の連れてきた眼鏡イケメンのトア。これがなかなか使える人で、ゆったりしているくせにノロくないという不思議な行動力を遺憾なく発揮。
もちろんメニューにはトアのおすすめがしっかり書かれている。今月のトアのおすすめ→トリッパのトマト煮込み。素晴らしい!
昨日の課長とした秘密会議を思い出す。
「これが俺なりのプランとざっくりとしたフローチャートです」
「どれどれ」
速読法並みの速さで目を通し、チャートを確認してニヤリ。
「ほほぅ」
「どんなもんでしょうか」
「いいねえ、いいねえ、でもねえ。独占欲に溢れすぎてて私情はさみまくりじゃないの?」
やはりバレた。
「題してハリウッド作戦です!」
課長に鼻をグリっとつままれる。いてぇ!
「あのねえ、わかってないねえ。高嶺の花にしちゃえば迂闊に手をだせないとでも?逆に燃える人間だっているぞ?メディアに乗せるっていうのはそういうことだ。ハリウッドスターの家に勝手に入ってプールで泳いだ女とか、そういうやっかいな人間を呼び込むことだってある。
男の同居人が居るっていうのを穿り返されたらどうするんだ?」
「『ビジネスに投資するために同居することで経済的なメリットを得ました。私のもち物件に彼が引っ越すことで私には家賃が支払われ、彼は市場より安い金額で住居を確保できることになります。
一石二鳥ですよ。その浮いた金銭をSABUROに投資するのです』
という飯塚の模範解答を用意してあります」
「それ飯塚のつもりだったのか? 全然似てないのな、武本。惚れた男の物真似くらい完璧にしたらどうだ?」
下手で結構です!惚れた男とかサラっといわれて恥ずかしい!
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