116 / 271
つづき
やってしまった。ほぼ喋っているのは僕で、またもやまくし立て状態。ううう~ハルさんごめんなさい。情けない顔をしていたのでしょうか、ハルさんがニッコリ笑ってくれました。
「言ったでしょ?最近はトアさんの話しが楽しくなってきたって。1のことが10以上になって膨らんでいくから聞いていても面白いですよ」
「そう言ってもらえると、驚くほど嬉しいです!」
「やはり本は漠然としすぎていますね」
ハルさんが困ったように首を傾けた時、お出かけしていた飯塚さんが返ってきた。
どうやら行き先は本屋さんだったようですね。袋をブラブラさせていますが、飯塚さんならどんな持ち方だって素敵です。
「おかえりなさい、本屋ですか?」
「ああ、シリーズの最初を読んでしまったので続きを買ってきた」
「ちょうど今、ハルさんと読書談義中でした(のはずが映画にすり替わりましたが)」
「飯塚さん、どんなの読んでいるのですか?」
飯塚さんはハルさんに買ってきた本を手渡しました。文庫本の表紙は白地に青い文字と鉄条網。なんだか不気味で暗そうです。
「前作が「チャイルド44」なんだ。スターリン統治下の暗黒時代のロシアが舞台。殺人は存在しない建前の中で国家がザクザク人を殺していた時代だな。そこで起こった連続殺人事件がストーリーの骨子。そして主人公が政府側の人間だから読むのが辛いと何度か本を置いた。それでも読み続けたのは登場人物達を丁寧に書いているから引きこまれる。事件の謎解きはある意味どうでもいいと思えるぐらい、時代小説としても読める。主人公がこの先どう生きるのか、それが気になって気になって、続編の「グラーグ57」と「エージェント6」の上下4冊を買った」
飯塚さんがこんなに長く話しているのを初めて聞きました。どうやら饒舌になるのは僕だけではないらしいと親近感が沸きまくりです!
「飯塚さん推しのM・コナリーも面白いですよね。まだ全部読めていないけど」
「毎年1作発表しているのに翻訳がおいついていないからな。それでも結構な数が出版されている」
「飯塚さんはいつも何かしら本持ち歩いていますよね。理さんは雑誌をパラパラしているのしか見たことがありませんが」
「ああ、理はあまり本を読まないな。マンガはよく読んでいるけど」
さとる?武本じゃなくさとる?
おもわずハルさんの顔を見ると、これはこれで悪い顔しています。今はスルーしてあげますけど、これをネタに絶対ギャフンといわせてあげますよ、飯塚さん。そんな声が聞こえてきそうです。
「トレヴェニアンの「シブミ」は読んだのか?」
「絶賛読み読み中です!あんな本があったことを知らなくて損した気分です。だからグズグズあえてゆっくり読んでいます。まもなくお返しできるかと」
「読み終えたら、ドン・ウィンズロウの「サトリ」を貸してやる」
「続編?でもドン・ウィンズロウは「ストリートキッズ」を書いた作家ですよね」
「そうだ。勝手に書いた続編だ。本家に比べれば、かなりのヌルさだがそれなりに楽しめる。アホみたいにサクサク読めること請け合いだ」
ハルさん。もう僕の「グリーンマイル」のことなんて忘れてしまっていますね。
ともだちにシェアしよう!