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octber 1.2015 やっぱり堕ちるダークサイド
「♪ダ~ダ~ダ、ディダダダダ、ダ~ダ~ダ、ディダダダダ、ダ~ダ~ダ、ディダダダダ、」
「おはよう」
「♪ダ~ダ~ダ、ディダダダダ、ダ~ダ~ダ、ディダダダダ、ダ~ダ~ダ、ディダダダダ、」
挨拶の相手は馴染みの旋律を憎々しげに大声で歌いながら、大根の桂剥きをしていた。桂剥きのコツは包丁を上下にしか動かさない。そして包丁が上に滑る時だけ切るようにする、刃が下に移動するときは刃をたてない。滑らかな包丁の動きとともに、薄紙のように剥かれた大根が折りたたまれ、まな板の上に重なっていく。
刺身のツマに使われる大根だが、桂剥きをした大根を打つ(切る)とキラキラ光る。 SABUROはランチにセットされているサラダにこの大根を入れるのが伝統らしい。村崎はオヤジさんにシゴかれてこの技を身につけた。練習に使った大根はすべて食すべしというオヤジさんの命令で恐ろしい量を食べたそうだ。大根のペペローンチーノや焼うどん的大根、大根サラダ、マヨ大根。この時は大根を見るのも嫌だったそうだが、今となっては立派なものだ。
このバカバカしいダースベイダーのテーマを大声で歌いながらも、大根の薄さは一定だし途中で切れることなくどんどん剥かれている。
「おはよう!」
「ディダダダダ!」
まったくもって馬鹿馬鹿しい。
白衣に着替えて厨房に入ると、熱唱は終わっていた。あれを延々リピートされるなら今日は休むと言ってやろう!そう勢いこんでいた俺は少々残念な気分になった。ここからの2ケ月を思えば気持ちはわからなくないが、十分なスタッフが揃う今年は去年や一昨年に比べてずっといい。
弁当の注文がちょくちょくくるようになって、通常のメニュー以外の対応も随分スマートになったし、ランチの合間にオーダーされるテイクアウトのパニーニもなかなか好評だ。お客様を待たせることはほとんどないし、北川とトアのおかげでホール環境も整えられている。
「今年はダークサイドに堕ちる心配はしなくていいじゃないか」
「そうはいっても、やってきちゃった10月さん!年末を見越した作業をヤレと強制するオクトーバーさん!」
何がオクトーバーさんだ。でも確かにそうだ。12月になると何でも値段が高くなる。クリスマスや年末のオードブルを作る材料を直前で仕入れると割高になるし、何より入用な食材が飲食店同士で被るから早めに押さえておかないと大変なことになる。
ある程度の数を予想するために10月には動き始めなくてはならない。それはつまりオードブルの中身は同じでいいのか?変えるとしたら何を?原価はどのくらい変わる?という風に考える時間と試作が必要になる。
クリスマスメニューを今年はどうするのか?に始まり、盛り付ける皿は足りるか?通常の仕入で賄えるか?駄目な場合は仕入先の目途をたてなくてはならないし、必要食材を確保する。通常営業と並行して。
「理が力になってくれるさ、リサーチ能力あるし調達するのが食材であろうが何とかしてくれる」
「ええ、めっちゃ期待しているよ。なんてたって諸葛孔明だからね、扇子振ったら一気にオードブルがボン!とできちゃったりしそうだね、ええ、そうであってほしいね~」
「なんでここで三国志なんだ?」
「知らぬが仏だ、飯塚君」
料理教室で何かあったのか?聞いたところではなかなかに盛り上がったと聞いたし、ホワイトボードの発注やらさっそく動いていた。理自身もメモをとっていたらしく、PCに向かって第一回目のレポートのようなものを打ち込んでいた。「それなに?」と聞いた俺に理は満足気に答えた。
『楽しそうな教室とその内容をさらりとまとめたものだよ。へえ、いってみようかな、と思ってもらえるような原稿にしたつもり。何らかの形で店内に出したいけど、どこにしようかな。あんまり壁にベタベタ貼るのもなんだし、トイレのドア?
女子は扉向いて座るからいいのか。でも相田みつおみたいじゃない?』
『それは、居酒屋だろう』
『じゃあ、トイレ仕様に組み替えてみるか』
会話に諸葛孔明はでてこなかったし、知らぬが仏な案件は含まれていなかった。帰ったら聞いてみるか。
そうこうしているうちに、ハルとトアが来て一気に仕事モードになった4人はもくもくと作業を続けて無事ランチ営業にこぎつけることができた。
村崎のあの歌はあれっきりだったし、ノーベンバーさんもディッセンバーさんも出現しなかった。過去の暗黒モードより随分マシな村崎に一安心。やはりスタッフが揃うと現場は勿論、精神的にも整うのだなと実感。
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