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octber 10.2015  理とミネの中休み

「リーマン生活もうすぐ終わりだな」  ミネにそう言われて、あらためて実感する。来週いっぱいで俺の会社勤めもおしまいだ。意外にも淡々と時間が流れて一日が終わっていく。  飯塚が辞めると決まってからの方が、ジタバタしていた。自分のことだというのに、何だか2回目の経験みたいな気がするのは、そのせいかもしれない。 「サトルのスーツ姿見られなくなるのね、ちょっと残念」 「そお?」 「なんていうの?俺仕事できちゃいますけど、なにか?って言いまくっている感じ」 「よくわかんないよ、それ」 「自信満々、絶対逃げは打たないし背中も見せない的なね」 「ゴルゴじゃあるまいし」 「しかし、そのソフトな感じがうまいこと中和しちゃって目が釘付け!なわけだ、女子達が。なんだか気が重いな、さとるさ~~ん、なんて目をキラキラさせるお客様を横目にイライラする飯塚を一日に何回見ることになるかな。ハルとトアを誘って賭けでもするか」 「何バカなこといってんの」  俺だって毎日イライラするはずだ。特にカウンター席に陣取る「お一人様軍団」(これは正明が命名)  この団員は水面下で攻防を繰り返している、議題は「実巳と飯塚どっちが男前?」その気持ちはわからなくもない。見た目は衛に一票だが、ミネの笑顔には惹きつけられるものがある。どっちも捨てがたい。  衛の白衣姿はストイックな感じがして緊張感がある、対してミネの白衣姿はエロい。なんだろう、着こなしています感?いや違う。あ~色気かな、自信に裏打ちされた働く男だけが持っているものかな。それを客に見せている、いや違う……魅せている!そうそう、これだ。 「お~~いサトルさん、どこに潜ってんの?」  ミネの声で思考から浮き上がる。何を考えてるんだ俺は。 「なに?また新提案?」 「いや。ミネと衛どっちが男前かって考えてた」  ミネは呆れた顔をして「鉄仮面と比べるな」と笑った。ほらね、この顔、これは中毒になる。 「そんなのね、人それぞれの好みってやつ?俺の場合、飯塚とサトルどっちが男前?って聞かれたらサトルって即答するし」  なんか照れる。ふっと浮き上がったのは俊己さんの顔だった。あの日笑っていただろうか? ニヤリぐらいはしたかもしれない。俊己さんが笑ったらミネみたいにいい笑顔だろう。 「そういえば、この間の命日の日。俊己さんに逢ったんだ」 「へえ~そうなんだ。え?はぁ?!」 「祟りもしないし化けて出ないって、でも化けてるねこれ。そんなこと言ってさ。最初ミネかとおもったんだよね。似ていたから」 「なにそれ!そんな「THE怪奇」みたいな経験をいつの間にしてんのよ。驚くなあ、でもどうせなら俺に挨拶してくれてもいいのにさ。身内なのに冷たいな」  ミネは充さんと俊己さんのことを知らないだろう。たぶん三郎さんもしらないはずだ。自分がこの世を去ってから生まれたミネより、俊己さんが優先したのは充さんだった。でもそれをミネに言っても意味のないことだし、俺が言うことでもない。  俊己さんの青いグラスは店の飾り棚に置かれている。「1年に1度の出番じゃかわいそうだな」ミネがそう言って飾った。ここからだと店の中見渡せるしねと指でグラスに触れたとき、俊己さんが喜んでいるような気がして何だか自分まで嬉しくなったことを思い出す。

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