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つづき

「それともう一つ。散髪だけじゃないだろ、今回の里帰りは」 「ええ……まあ」 「サトの引っ越し報告?」 「ですね」 「でもたぶん、サトは今回言えないまま帰るだろうな」 「どうしてですか?」 「元同僚と違うジャンルで頑張ることにした。ついでにそいつのマンションの空部屋に住まわせてくれるっていうから家賃も助かるし引っ越しすることにした。それを聞いて、お父さんもお母さんも変に勘繰ったりはしないと思うんだよ。普通そうだろ?」 「ですよね。でも理はけっこう気にしている素振りです」 「嘘を言っているわけじゃないけど全てを打ち明けているわけじゃない。隠し事ってことだろ? 本当のところは同性と同棲なわけだし、親に申し訳ないというか、変なとこ潔癖な所あるだろ、サトは。だから「今回ブラっと帰ってきた~ついでによし兄に客連れてきちゃったよ!あ、こいつは飯塚。同期で仲がいいんだ」と衛を親に紹介するのが精一杯だな。衛のことでウダウダ悩んでいたときも、自分で言えないからハルをいきなり連れてきたんだぞ。 今回は衛を連れてきた、結果は同じ、自分じゃ言えない」 「じゃあ、俺が言うべきですか?」 「いや、ほっておけばいい。そのうち腹くくるだろ。 それと親にカミングアウトはどうするとか話し合ったことあるか?」 「ありませんね……いつかは持ち出す必要がある議題ですよね」 「俺の意見を参考までに。実は昔の男が押し掛けてきちゃったことがあってさ」  口がポカンと開いた。ネタかジョークかっていう程、色恋沙汰をさらっと言うから、この人にとっての恋愛はその程度のものだったのだろう。結婚生活に対しての深い想いを知っているだけに、それ以前の色恋は裏付けのないフワフワしたものだったのだろう。 「紗江さん、どうしたんですか、その時」 「愛情の燃えカスを燻らせて自分のまわりを漂っている煙の正体は執着と後悔。それは愛情じゃない、もう貴方は由樹を愛していないはずよ。かつての時間に縋っても無駄。前をみなくちゃね。とか何とか言って、さっくり帰した」  紗江さん恐るべし(とりあえず、紗江さんには「紗江さん」でOKをもらっている) 「紗江曰く「男のほうが未練がましい」だそうです。ま、それは認めるよ。もし紗江に捨てられたら、俺ずっと忘れられないと思うし。ストーカーでも何でもしちゃいそう」 「それは如何なものかと」 「話をもどそう。俺がバイっていうか昔かなりフラフラしていたこと、お父さんとお母さんに言った方がいいのかな。そういう話になったんだ。 その時紗江が言ったのは、「由樹は隠し事をしたくないって気持ちかもしれないけど、打ち明けることは自己満足なんじゃないかな」って。「知らなくていい事を聞かされて、心を乱す側に何のメリットがあるかしら。よく考えてみて」と言われて、そうだよな~と思った」  たしかに一理ある。  家族としての関係が穏やかに営まれている中に、突然爆弾を破裂させて大きな穴をあけることに意味はあるだろうか。事実を全員が知り、あいてしまった穴を皆で埋めなおす?  絶対元通りにはならない。埋めた穴が周囲と馴染むまで、長い時間が必要になる。

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