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octber 14.2015  アリンコとキリギリス

「やってきました、暇暇ウィーク」 「しょうがないですよ、でも誰もこないってわけじゃないし。ここより暇な店沢山ありますよ?隣、また変わりそうですね」  ハルに冷静に返されてしまった。 「隣ね~続かないのは場所のせいか?」 「場所のせいで潰れる?隣ならSABUROだって同じ条件ですが、そんな事になってません!」  そりゃそうなんだけど。オヤジの代の頃から隣の店舗はコロコロ変わる。大改装するわけじゃないからほぼ居抜きで内装の雰囲気を変えたりしてオープンするも、ことごとく消えていく。石潰しのお化けでも憑りついているのかも。  飾り棚の青いグラスに目がとまった。うっ!まさか俊己おじさんが隣に嫌がらせをしているのだろうか?んなわけはない。(……は。) 「そういや、ハルは学校いかなくていいの?たまにしか行かないけど」 「必要単位は3年生までにぶち込めるだけ入れたんです。去年の暮れから卒論にとりかかったおかげで、そっちも問題ありません。今頃になってヒーヒーいっている友達の姿を見て、僕は腹の中で舌だしてますよ。自業自得だねって、完全に見下しちゃってま~す」  そうですか。別に見下さなくてもいいのにね。あ~あれか、トアが教えてくれた、ハルの凹み原因。原因を口走った友達が苦しむ姿を見てアッカンベーね。 「僕は夏休み前に自由研究を仕上げるような子供だったのです。計画性はバッチリですよ」 「恐るべしアリンコ気質だな」 「キリギリスよりずっといいじゃないですか」 「北海道に住んでいると「アリとキリギリス」の話しは身に沁みるよな。冬の準備をしないと死んでしまう。車だって寒冷地仕様だし、タイヤは2種類必要だろ?夏タイヤと冬タイヤ。 靴だって裏貼ってないと道でひっくり返るし、防寒具ないと外にもいけない。お金ないと灯油買えないから凍死しちゃう。そしてなにより作物がまったくとれない。 昨日なんて最高気温12℃だぞ?最高気温がマイナスになる季節がやってくる~」 「畑は凍ってガッチガチでスコップ入りません。なにより雪が上に積もって地面に辿りつけないし。春になって軒下で凍ってた人が毎年何人か発見されますよね」 「屋根の雪下ろしは慎重にね!そうじゃなくて、冬に九州いったことあるけどさ、真冬の時期に畑にいっぱい野菜が植わってる。おまけにちゃんと収穫できるわけ。冬が旬の野菜があるってことにびっくりしちゃったもんね~。酔っ払って朝まで外で寝ていても死なないくらい温かい。 ああいう場所だとアリンコさんの誠実勤勉さがイマイチ理解されないんじゃないかって心配したくらい。 やはり北の大地は人を厳しくさせるのだな、アリンコハル君!」  ハルの視線が、超冷たいデス。 「俺はアリンコとキリギリスが合体したハイブリットかな。追い詰められて初めてやる気になる子です。今困っているのは次の月曜にする料理教室のテーマなんですの、どうしましょうか、アリンコさん」 「ミネさん、今日何曜日ですか?」 「水曜日デス」 「前回料理教室何日にしましたっけ?」 「……9/10デス」 「1ケ月以上たってるのに、まだ決めていないってどういうことですか?僕なら年間計画を作って、そのとおりにサクサクこなします。その方がずっと楽だし、日々の業務をこなしていても決まったことをすればいいだけです。 これから大変な時期を迎えるのですから、そういう事に手間かけすぎるとミネさんがパンクしちゃうじゃないですか! それは困ります!だからもう今1年分今考えちゃいましょう!はい、座って!」  アリンコさんが、先生に変わりました。  結局それからテーマを考えることになりまして、ざっくり決めました12回。でもね、きっと時代の流れとか流行り廃りがあるからね、変更することもあると思うのよ。そうなるとね、その都度マッチしたベストなテーマを考える方がよくないでしょうか?  でもアリンコハルが怖い顔しているので言いませんでしたよ。俺、いちおう大人ですから。  んで、決まりました、次のテーマ。 「簡単につくれるベシャメルソース!これであなたもグラタン名人」  サトルのグラタンの量がどうしたとか、皿の大きさは各家庭で違うからって言ってましたね。それを完全にパクリました。  要領よくないと人間生きるの大変ですからね!

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