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november.9.2015  二人の誕生会 <昼>

「やっほ~!すっごくいい匂いがする!」  オーブンから平鍋をだすと理は子供のように喜んだ。これまだ未完成だぞ?肉はトロトロになっていたから問題なし。あとはソースをつくってかければ出来上がりだ。 「理、パン焼いてくれるか?」 「おう!まかしとけ!」  お湯をわかしてフィットチーネを茹でる。こういう濃厚で重いソースには幅広のパスタが良く合うから付け合せには最高。  肉とローリエの葉を取り出すと、クタクタになった野菜とブイヨンをミキサーに移した。本当は濾したスープでソースを作るらしいが、俺は全部食べられる方法が好きだ。ミキサーにかければ美味しそうな濃い色の緩いペースト状に変わる。  エシャロットとニンニクを炒めて香りをだしたあと、ミキサーの中身を加える。なじませて塩コショウで味付けをしたあとコニャックで香りづけ。茹であがったフィットチーネはオリーブオイルをかけて肉の隣に盛る。  ソースの仕上げにバターを加えれば俺なりの牛テール煮込みができあがった。理はこれが大好きだが、すぐにできる一皿じゃないので、特別の日に食べる俺達のとっておきだ。  休日にしなくてはならない事を二人で黙々とこなした。掃除は自室をそれぞれしたあと、リビングと寝室を分担。水まわりの掃除を理にまかせて洗濯機をまわしたあと、スーパーに出かける。歩いていかれる距離にあるのがありがたい。1週間分買えると楽だが、車がないので持てるだけの量にする。調味料や日用品が主で、食品は少ない。仕入に便乗して発注したり、中休みに買い物をするほうが楽だったりする。  車を持つことを相談したが二人の至った結論は「いらないね」だった。遠出するときはレンタカーを借りればいいし、連休がない状態でどこかに出かけることは難しい。  駐車場に車のローン、ガソリン代に保険、維持費。理は言った「月間3万円タクシー使うって結構乗れるよね」  タクシー通勤したとしても、その程度ですむ計算だ。じゃあ、いらないねという事になった。田舎ならともかく、都会は車がなくても暮らしていかれる。  宅配便と牛テールの様子が気になっていたので、買い物は早々に切り上げ部屋に戻った。 「ただいま」 「おかえり」  理はふんふん鼻歌を歌いながら、お気に入りのベランダに洗濯物を干していた。さすがに夜ベランダにでることはなくなったが、この場所はとても大事なスペース。春になって夏がくれば、ここに座ってビールを飲めるようになるだろう。たとえ一言も言葉をかわさなくても、並んですわりながら夜の街の灯りを見たり、晴れた景色をみることで同じ時間をすごしている実感がわく。  一緒に住む前から、理はこのベランダで時間を過ごしていた。月を眺めたり、休日の時間を満喫する姿を見るのがいい。そこに佇む理を目にすると、なんだかとても充実した気持ちが沸きあがってくるのが不思議だ。理は俺のどんな姿を見たら、そんな風に感じるのだろうか。 「一足先にワインが届いたよ」  キッチンに3箱置かれたワインが18本。一見すごい量に見えるが、二人で飲めばすぐになくなってしまうだろう。プレゼントにもらった倍の大きさのボトルが2本同じく並んでいる。「芸がなくてすまんな」「来年はリベンジします!」村崎とトアがくれたマグナムボトルは結構な重さで、帰りは一本ずつ持って帰ってきた。あ、そういえば北川のプレゼント。  インターホンがなり、どうやら宅配便が届いたようだ。  オートロック開錠のボタンを押して玄関に行く理に受け取りを任せることにして、冷蔵庫にいれておいたカプレーゼをだす。バルサミコとオリーブオイルに塩コショウ。買ってきたバジルをちぎってのせるだけ。シンプルだがワインにはぴったりのつまみだ。 「衛~これなに?開けていい?」  二人の為に買ったと言っておいたのに、開ける気マンマンだ。中身が何だかわかるだろうか? 「いいぞ」  カプレーゼと取り皿を持ってリビングにいくと理が箱の中身を見て頭をひねっていた。 「お、うまそ!」  カプレーゼを見ての第一声。なんでも「「美味しそう、旨そう!」にはじまり、「美味しかった~」で締める顔をみれば、作り甲斐があるというものだ。 最初から変わらないな、そんなことを思い出す。ハニーマスタードのポテトだったな。

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