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november.9.2015 二人の誕生会 <夜>
美味しいと喜ぶ姿にいいようのない安堵と愛おしさがつのった。明日のことを考えるにはまだ時間が浅かったし、たっぷり持ち時間があった。食欲を満たし、お互いの存在に心を満たす午後。
「休憩~」
そう言って床に転がった理の横に座り、特に意図もなく相手の指先をつまんでは離す。
そんな単純な刺激のせいか、だんだん瞼が重くなってくることに必死に抵抗している顔を見て言った。「少し寝ればいい。ちゃんと起こしてやる」
その言葉に安心したのか、ふわっと眠りの中に沈み込んでいった。それを見て頬が緩むことを自覚して、相当惚れこんでいることが何故か誇らしく感じた。
そしてきっかり20分で理の肩を静かに揺すった。
「理?そんなに眠いのならちゃんと寝たほうがいい」
ボンヤリと半分開かれた瞼の奥で、瞳がユルりと光ったのを俺は見逃さなかった。
「眠くないけど、ここは嫌だ。背中が痛くなる」
直接的に「ベッドにいこう」そんなふうに言うことが多いのに、今日に限って中途半端な誘いだ。一緒に住むようになってから、随分自分に甘えてくれるようになった。対等のパートナーであり「家族」である理が自分にだけみせる隙と甘さは心の現れだと思えるから嬉しい。
「そうだな、俺はここでもいいけどな」
だから少しだけ意地悪をしたくなる。何と返してくるのか知りたい。そして楽しい。
「意地悪言うなよ」
伸ばされた指先がつま先に触れ、親指の爪をカリっとひっかく。理の返答はいつも違っていて、色々なバリエーションがある。今回はゾクゾクする類のものだ。
「わかっているくせに」
足の指を一本ずつ撫で、爪でひっかく。馴れない刺激は心拍数をあげるには充分で、体温が一気に高くなった。理の両腕が伸びて来る。
「起き上がるから、ひっぱって」
言われるままに引っ張り上げると、予想よりも勢いよく起き上がった理の唇が鼻先をかすめた。わざと触れそうで触れない距離を保ちながら、悪戯めいた視線が投げ返される。
「衛……わかっているくせに」
「ああ、わかっている」
もうこれ以上何かを言われてしまえば、身体だけではなく脳まで爛れてしまいそうだ。何かに追われるような切迫感に背中を押されて静かに口づけた。塞がれた唇はもう言葉を発しない。ここからは蠢く舌と肌の上を踊る指先、お互いの肌と体温が言葉の代わりになる。
俺達は言葉を使わなくても饒舌に愛を囁くことができる。お互いの重さが心の証。
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