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つづき

 ベッドを抜け出しリビングで立ち止まって見たのは窓とテーブル。空の皿と、空のボトル、空のグラス。デキャンタの底に1cmくらいのワインが静かに揺れていた。  少しまえの自分達を思い返しながらカーテンを閉める。  事後のまどろみ、そして明るいうちから飲んだアルコールのせいで体はだるく喉が渇いている。  空いた皿をキッチンにさげ、冷蔵庫の中からペットボトルをとりだし一気に飲み干した。喉を滑り落ちる水は身体に沁みこむようだ。もう一本ペットボトルを手にとり、寝室に戻る前にバスタブに湯をはった。このまま寝かせておいてやりたいところだが、そうもいかない。  寝室に戻ると理はベッドに起き上がり、ぼうっと空を見詰めていた。髪は乱れ、気だるい表情は色の名残を映したままで、暗く翳った空気の色がミステリアスな雰囲気を添えていた。腰のあたりに巻きついたタオルケットと乱れたシーツ、漂う空気。  ここにあるものは全てが濃密で自然に呼吸が浅くなってしまう。どの女にも感じたことのない身体の底から湧き上がる欲望。この欲は相手を欲するごく自然のもので、排泄欲求とはまったく違うものだ。  二人の間に存在するSEXは未知の領域に位置している。 「生き死にを繰り返すような生命の本質を体験している、それが一番近い」  理は前にそう言った。気持ちがいいという快楽とは別の何かが確かに存在する。お互いの底に潜りこんでいくような一体感、そしてそれができるのは理だけ。 「かけがえのない存在」であることを深く確かめる、それが二人にとってのSEXだ。下世話な欲にまみれた行為ではない。 「先に入ってて」  ペットボトルのキャップをひねり切ってから渡して、優しく言えば理はコクンと頷く。肌を重ねたあと、二人はともに素直になる。すべてを晒し、身体を開き、心を寄せる。それをしたあとに意地をはったり恥ずかしがる必要がないからだ。何もかもそぎ落とされた「個」の二人は本質だけが残り、空気は緩やかに流れる。 「ありがと」  半分ほど残ったペットボトルを手渡したあと理はバスルームに行った。シーツを引きはがし清潔なシーツを用意してベッドメイクをする。洗濯機に洗い物をセットしてからバスルームにいくのも毎回のことだ。言葉を交わさなくても自分のすべきことを理解し行動する。  理という存在を失ったら、自分はどうなってしまうのだろうか。以前はこれを考えると怖くてたまらなくなった。今も怖いことには変わりはない……でも何かが違う。失いそうになれば足掻けばいい。離れてしまいそうになれば必死に腕を伸ばせばいい。そう考えるようになった。理が近くにいると実感できるからかもしれない。

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