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november.15.2015 理のピンク色
「はいこれ」
帰宅そうそう、精一杯のぶっきらぼうを装ってプリントアウトしたA4の紙を渡した。昼間からポケットにいれておいた畳んだ紙が仕事中カサっとするたびにニヤケそうになるのを必死でこらえ続けたのだ。周囲に知られないように緩んだ顔をひっこめるのは大変だった。
「なに?」
なんだろうな顔とともに手が伸びてくる。それがどんな時であっても、どんな意味があっても衛の腕がこっちに伸びてくるとドキっとする。
当たり前のように紙を掴んでいるけど、ちょっとくらい指を触るとかすればいいのに。どうにも誕生会以降、俺の頭の中は沸いているのか、乙女モードが発動しているようだ。 だからこうなったらヤケクソだ!と一大決心をしてサクサク手配したというわけで。ちょっと色々恥ずかしいけれど、一度はしてみたかったから実行に移すことにした。
なんといっても衛の誕生日プレゼントだし、二人の為になるものがいいっていう衛の意見には大賛成だったから、この機会を有効に使うことにした。
「え……これって」
「これって、そのまんまだよ」
「でもこの日は散髪に行くってことになってたじゃないか。北川も連れて行くって」
「正明の了解はとった。次週にずらすことにしたよ。勝手に決めて悪いと思ったけど、俺だってプレゼントしたいじゃないか。衛の言った「二人のため」になるものを考えたらここにいきついた。12月になったら無理だし、その前に心と身体の栄養をとっておくのは備えだ!他意はない!」
衛は紙を持ったままクスクス笑う。あいかわらずの笑顔には優しさが零れて、おまけに溢れている。その顔はやめてくれ、ほんと、今最高に恥ずかしいんだぞ!
「値段が印字されているぞ?俺の買ったものよりよっぽど高い!」
「ん~でもさ。冷蔵庫を買わなくて済んだし、引っ越し費用もかからなかった。家賃だって受け取らないじゃない。」
「理から家賃もらってどうするんだよ。こっそり積立するとか、そんな事になるだけだ。光熱費と修繕積立と公益費を折半で充分。俺だって家賃払っているわけじゃないし。食費だって半分ずつなんだから、そんなこと気にするなよ」
「まあ、それは話し合って納得したことではあるけどさ。いや俺が言いたかったのは、環境が変わる備えとしてボーナスを使わないでおいたの。その一部を楽しいことに投資して二人で回収すればいいじゃないかって……だめ?」
「俺が断ると?」
「断られたら困るよ。もうキャンセル料が発生する」
衛はニヤリと笑って言った。
「風呂入ってくる」
んなっ!この意地悪め!おまけに紙を持ったままリビングを出て行ってしまった。さりげない風を装いたかったから18日でもなんでもない今日を選んだというのに、なんだか焦って18日まで待てなかったみたいに思われたんじゃないか?楽しいことを黙っていられないよ~どうしよう、言っちゃおうかな!なんていう子供みたいだ。
ぐうううぅぅ。なんだか最近は衛にやられっぱなしじゃない?俺。俺の反撃って衛を喜ばせている?
男の威厳を取り戻さないといけない、そう思うのに俺はいまピンク色なんだよ。バイオリズムの曲線みたいに緩やかに昇って、また下降する動きみたいに、衛への気持ちがぐわ~って上がってまた落ち着く、そんな感じがある。常に一定の線じゃないからやっかいだ。自分の気持ちだけど制御不能だからどうしようもない。
今は緩やかに上昇中というわけで落ち着かない。普段できないようなことをしたり言ったりしちゃいそうで怖くもある。でも衛は笑ったり馬鹿にすることはないだろうな、喜ぶだけだ。
俺ってば何言っんだか……恥ずかしい。
バスタオルで髪をガシガシ拭きながら衛が戻ってきた。パジャマってのは下だけじゃなくて上もあるんだぞ!と言ってやりたい。
「チーズオムレツでもつまむか。風呂入ってこいよ」
「上半身裸で台所に立つなよ!」
「わかったよ」
そしてニヤリ。
はあぁぁ……風呂行ってこよ。
リビングに戻ればセッティングはすべて揃っている。俺はあてつけみたいにパジャマをしっかり着込んだ。
衛もさすがに着ていたから安心した。風邪をひいている場合じゃないし、今の状態で上半身裸の衛をつまみに酒を飲める気がしない。飛びかかってしまう。
とりあえず乾杯。
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