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つづき

 連れて行かれた先は食事もできるダイニングバー。  ギイさんの名前は「儀」の一文字で「ただし」と読むらしい。でも皆「ギイさん」と呼んでいるから誰も本名を呼ぶことは無い。僕はキイと呼ばれていた。キタとかキーちゃんがキイになったという単純なもので何のヒネリもない。ミネさんにしてみれば、初めての僕の呼び名だったから違和感ありまくりだっただろうな。  ビールが運ばれてきて、とりあえず乾杯する。 「おひさし~」 「お久しぶりです」  ゴクリとビールを飲んだあと、ニヤニヤ笑いながら僕の顔をみている。やっぱりタケさんの言うとおり髪型が変なのだろうか。 「『Bright』にぜんぜん来ないのな、最近どうしてるのか誰も知らないって言うし。そしたら今日偶然見つけちゃったわけ、店の中にいるキイをね」  よかった……偶然で。 『Bright』っていうのは、そのての店で僕は一人暮らしを始めた頃から通っていた。先輩とゴタゴタがあってから真剣に恋愛するリスクは負いたくない、そんな若者らしからぬ考えに凝り固まった僕は後腐れのない関係で充分だと思っていた。一緒に住む親はいないし、なんとなく僕が何かをやらかした事をクラスメイトは感付いていたから、学校も楽しくなかった。  そして大学に入り、しがらみは大方消えたけれど、学校生活においての付き合いは発生する。友達にゲイだと打ち明けられない後ろめたさ、隠し事をしているような気持ちは踏み込んだ友達付き合いに発展することなく歩留りでおさまることになった。  僕はそれでいいと思ったし、誘われる飲み会、時には合コンにいって付き合いを重ねながら大学生を楽しんでいるふりをしていた。  そして多くの時間を『Bright』で過ごし、何人かの人と関わった。ギイさんはその中の一人だ。ええっと、確か今年で30歳になるから理さん達よりすこし上になる。トアさんよりは下ですね。 「しっかし、あんな何人も白馬の王子様をはべらせてるんだ?さすがキイだな」 「なにを言っているのです。僕の大事な仕事仲間とオーナーさんですよ。変な事言わないでください」 「そういうことにしておいてやるよ。うっかりいつもの調子で軽いこと言ったら、あの場で殴られそうだったし。皆怖いじゃんか、でも舌なめずりしそうにいい男ばっかりだな」  僕はこの人のこういう物言いを格好いいと思っていた時期がありました。自分と違って欲や気持ちを言葉にすることに何のためらいもないこと。それはゲイであることを認めて、突き抜けた自信の証のように思えた。僕はまだ経験値が低かったし、SABUROの皆さんのような男の人達に出逢っていなかった。  即物的に相手を探し、自分を確認することに意味があると思っていました。そこにSEXは絶対要素だと信じていて……そうじゃない関係だって立派に存在すると今ならわかるけど、僕は当時知らなかった。 「マスターもキイちゃん違う店に浮気したのかなって言ってる」 「夜に出かけることはありません」 「まじで?なにしてんの?」 「家に帰ります」 「で?」 「DVD見ます。あと本を読みます」  ギイさんはビックリした顔をして僕をみている。そんな新種の動物でもあるまいし、DVDを見たり読書することがそんなに不思議ですかね。 「青春を謳歌してないのな。そこらのジミー君みたいじゃないか」 「ジミー君でも地味男君でもいいですよ。ついでにいえば青春は謳歌してます。毎日勉強して何か覚えて、お客さんに心を砕いて、皆で笑っています。励ましてもらう日もあれば、たしなめてくれる時もある。僕は毎日が楽しいです」 「……まじかよ」 「まじです」

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