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つづき

「俺も同じだよ、親に嘘ついている気がして悩んでいる。正明はある意味それがないだろ? だからいいとか悪いとかって話じゃなくてさ」 「ああ……ですね。結局カミングアウトしたからって楽になるってわけでもないし」  理さんは窓の外から僕に視線を移した。その目は真剣で、悩んでいる事に関わる内容なんだろうと思う。 僕は僕なりの考えをきちんと言おうと決めた。 「ご両親に飯塚さんと住んでいて、それはすなわち同居じゃなく同棲だと打ち明けたとします。理さんにとって嘘はなくなり事実が表面化する。心は楽になるかもしれない。 でも、同性と恋愛しているという現実は変わらない。ずっとついてまわる。 僕はゲイだと家族全員が不意打ちみたいに知ることになった。そしてそれを受け入れざるを得なくなった。 あ~正明は男としか恋愛できないんだなって。 だからって僕以外の家族は全員ストレートだから、理解不能な状況はかわらないのです。彼氏をつれていっても衝撃が少ないってだけで、結局は「やっぱり相手は男なんだ」という現実をつきつけることになる。 だから言う事が「良い事」なのか、僕は正直わかりません。自分が楽になる為にカミングアウトするのなら、もう少し考えるべきだし、飯塚さんと相談したほうがいいと思います」  理さんはフっと表情を緩めた。テーブルの上にあった僕の手の甲をトントンと人差し指で叩く。 「さすがだな、正明は。俺なんかよりずっと現実を見ている。言ってしまえば楽になる、でも聞かされた相手がどう思うのか、俺はそこまで考えていなかった。 それに衛にも相談していないし悩んでいることを打ち明けてもいない。 もしかしたら、あえて言わない選択も勇気があるってことなのかも。 同棲だけど同居だっていう「嘘」を生涯つきとおすぐらいの覚悟。俺にその方向性を見つけることはできなかった。 何かに悩んで壁に阻まれると、正明が壁の上から手をさしのべて引っ張り上げてくれる。 俺にとってお前はそういう存在だよ。大事な大事な友達で仲間だ」 『約束まもって、おりこうさん』そういってくれたミネさんの言葉と、今理さんの言ってくれたことが胸に重く響いた。そして何の根拠もなく感じた。  僕は大丈夫、もう大丈夫って。すっと胸が軽くなって自然と笑みが浮かぶ。 「理さん、大丈夫です。絶対大丈夫です」 「……ん?そう?」  僕たちはそのまま黙って座って残りの時間を過ごした。その間、理さんの指はずっと僕の手の甲の上を上下していて、なんだかそれに安心した。  とんとん……とんとん  トントン……トントン  うん、大丈夫。僕たち皆……大丈夫。

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