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つづき
内風呂は露天だった。結局大浴場にはまだ行っていない。明日の朝早くに入りに行けばいいか……磨きこまれた御影石に頭を預けながら、窓の外を見る。
客室にはウッドデッキが設えてあるから、椅子に座って夜空を眺めるのは素敵だろう。だがまもなく12月を迎える時期にはふさわしくない。
春なら芽吹いたばかりの黄緑色の新緑が目に優しいだろう。
夏なら陽のおちたあとの月を眺めながらビールを飲めば月見酒。
秋なら紅葉の燃えるような色と、それを失いすべてが白く変わる前の静寂を楽しめる。
冬なら露天につかりながら、静かにおちてくる雪を眺めるのもいい。
今回のタイミングは少し早くて少し遅かった。葉が枯れ落ち、まだ雪のない景色は少し寂しい。寂しいのも悪くはない。そう思えるのは自分が寂しさと無縁の生活をしているからだ。
「衛」
5℃を下回る気温の中で、飯塚の名前は白い息となって消えていく。
「ま……も……り」
湯船に流れ込むお湯の音に名前は消えていく。
衝動のような不安が急に脳裏に映って、動きがとまった。最近はあまり考えなくなったこと……俊己さんのように急にいなくなったらどうしよう。それは恐怖とともに突然身体の中に溢れかえる。さっき呼んだ名前のように消えてしまったら?
ゆったりとした気持ちと空気は消えてなくなり、湯船から勢いよく飛び出す。おざなりに体を拭いたあと浴衣を肩にかけた。速足で歩きながら腕をとおす。
ベッドルームのドアを開けると、クッションと枕に埋もれてベッドヘッドに寄りかかり目をとじている衛の姿が目にはいる。均整のとれた身体となめらかな肌がダウンライトの光をうけてオレンジ色に染まっていた。
ちゃんと息をしている?
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